ISMSにおけるリスク所有者とは?役割と責任範囲について分かりやすく解説!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月24日
- 読了時間: 9分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 本記事の目的と想定読者
ISMS(ISO27001)を導入する際、リスク管理の手順はリスクアセスメント→リスク対応計画…と進みますが、その中でも**「リスク所有者」**という考え方が重要になります。リスク所有者をしっかりと定義しないと、インシデントが起きたときや審査対応の際に「誰が責任を持つのか」が不明瞭になり、トラブルの原因にもなります。
この記事の目的
ISMSにおけるリスク所有者の基本的な定義と意義を初心者向けに解説
実務で役立つ選定手順や運用方法、他社事例の紹介
失敗を防ぎ、審査にも合格しやすい仕組みを理解できる
想定読者
これからISO27001(ISMS)を取得・更新したい担当者
リスク管理や内部監査でリスク所有者の役割が曖昧になっている企業の管理者
審査準備でリスク対応策や責任範囲を整理したい方
1.2. ISMSにおける「リスク所有者」の重要性
リスク所有者を明確にしないと…
インシデント発生時に誰が最終判断を下すのか混乱
予算や人員が必要な対策が先送りになる
審査員から不備を指摘され、審査合格が難しくなる
所有者をきちんと決めるメリット
経営レベルでリスク対応をコントロールしやすい
管理策の実行や進捗を追いやすい→ PDCAサイクルが回りやすい
社員の意識向上につながり、トラブル発生時の初動も素早くなる
1.3. 本記事で得られるメリット
リスク所有者の定義や役割・責任範囲を理解し、実務へ活かせる
他社の成功事例や失敗パターンから学び、審査で指摘されない体制を作れる
社内でリスク管理をスムーズに進め、情報セキュリティ対策のレベルを底上げ
2. ISMSにおけるリスク所有者とは?
2.1. リスク所有者の基本定義
リスク所有者とは、あるリスクに対して最終的な責任を持ち、リスクを“どう扱うか”を決定する人を指します。ISO27001では、リスクに対して「回避・軽減・移転・受容」といった対応方法を選ぶ必要がありますが、その最終決定を下す立場がリスク所有者です。
ポイント: リスク所有者≠リスク対応者の場合もある
リスク所有者は意思決定を担い、実際に対策を行うのは他の担当部署というケースが多い
2.2. リスク所有者が果たす役割
リスクアセスメント結果へのコミット
リスク評価が高いものは優先的に対策を強化する
低リスクと判断する場合はリスクを受容する決断を下す
予算・リソース確保
対策導入に必要な経費を承認・確保し、実行部隊を統制
審査や監査への責任
外部審査員から質問されたときに「なぜこのリスクをこう対処しているか」を説明できる
2.3. 初心者が理解すべきキーワード
リスク受容: 発生確率や影響度を考慮し、対策コストが上回る場合などはリスクを許容
責任分担: リスク所有者を明確化しないと、誰も責任を持たないグレーゾーンが発生しやすい
リスク評価表: リスクアセスメント時にリスク所有者名を記載しておくと、運用・監査で迷わない
3. リスク所有者の役割:具体的イメージ
3.1. リスク対応策の承認・判断
対策導入の最終決裁
例:新ファイアウォール購入、セキュリティ教育の予算承認など
費用対効果の判断
このリスクに対し「軽減策を取るか、受容するか」を決める権限がある
3.2. 実務的な管理責任
担当者への指示・進捗確認
情報システム部や総務部など実際に対策を行う部署をフォローし、定期報告を受ける
インシデント発生時のリーダーシップ
リスク所有者が初動対応や被害範囲の切り分けを指揮し、適切なタイミングで経営層にエスカレーション
3.3. 監査・審査対応
根拠資料の提示
「このリスクをこう対策している理由」や「どの程度コストがかかったか」を説明
改善策の承認
監査結果で不備が出た場合も、リスク所有者が“どう改善するか”を判断し、実行を指示
4. リスク所有者の責任範囲
4.1. どの範囲を担当するか
情報資産やシステムごとに設定
例:顧客データベースのリスク所有者はIT部長、紙の書類保管リスク所有者は総務課長など
部門ごとに分割
大規模組織なら、財務リスクは経理部長、顧客情報リスクは営業本部長などに分ける
4.2. 責任の重さと経営層のバックアップ
プロの視点: リスク所有者がきちんと意思決定できるよう、経営層が予算や承認フローをサポートするのが理想。そうでないと、リスク所有者が“名ばかり”になりがち。
4.3. 実務例:責任範囲の明文化
リスク対応計画に「リスク名」「所有者」「対策内容」「期限」を記載
情報資産台帳に“○○システムのリスク所有者:○○部長”と明記し、誰が最終判断をするか一目で分かるように
5. リスク所有者の選定手順とポイント
5.1. ステップ①:情報資産や業務プロセスの整理
リスクアセスメントに先立ち、何が重要資産か、どのように管理されているかを一覧化
実務TIP: 簡易的なExcel表でもいいので、資産と関連部署を洗い出すと担当割り当てがスムーズ
5.2. ステップ②:担当部門長・経営層とすり合わせ
予算・人事権を持つ人が所有者になりやすい
例:基幹システムリスク→IT部長、財務システムリスク→財務部長など
経営層との相談で「このリスクは役員が責任を負うべきだ」となる場合も
5.3. ステップ③:文書化と周知
リスク登録簿: “リスク所有者”欄を追加して正式に文書化
コミュニケーション: メールやイントラで周知し、部署間で責任範囲が重ならないよう調整
6. リスク所有者の運用方法:連携と報告体制
6.1. リスクアセスメント結果の共有
定期報告: リスク担当部署が所有者にインシデント情報や脆弱性、変更予定を伝える
ベースライン×詳細分析: 重大リスクは詳細分析を追加して、所有者が方針を決定
6.2. アクションプランの実施管理
対策着手→進捗モニタリング: IT部門や総務が具体的な作業を行い、リスク所有者は週次・月次で報告を受ける
予算追加: 想定外のコストやリスクが判明した場合、所有者が承認して経営層に掛け合う
6.3. マネジメントレビューとエスカレーションルート
マネジメントレビュー: リスク所有者が“今どこにリスクがあるのか”“追加予算が必要か”を経営層に報告し、方向性を調整
エスカレーション: 自社で対処できない重大リスクなら、上位役職者や経営会議に早期にエスカレート
7. 他社事例:リスク所有者の明確化で成功した例
7.1. 製造業A社:迅速なインシデント対応が可能に
背景: 不審メールが社内に蔓延した際、初動が遅れ被害が拡大
改善: 情報資産を担当部署ごとに割り振り、部長クラスを“リスク所有者”に指定
結果: その後の類似インシデント時には「メール管理リスク所有者」が即対応方針を決め、損害を最小限に抑える
7.2. IT企業B社:経営層が主導しセキュリティ投資を効果的に実施
背景: 大規模クラウドサービスのリスクを認識しつつ、対策コストが承認されず放置
対応: クラウドインフラリスクの所有者を役員レベルに設定し、投資判断をトップダウンで加速
成果: 高度な脆弱性スキャンやログ監視が導入され、ISMS審査でも高評価
7.3. 金融機関C社:審査で高評価を獲得
背景: 前回審査で「リスク対応の責任分担が明確でない」と指摘
対応: リスク所有者をアプリケーションごとに設定し、管理台帳を整備
成果: 更新審査で「責任範囲が明確化され、スムーズに対策が行われている」と好感触
8. 失敗事例と回避策
8.1. 責任だけ押し付けられ、実行権限や予算が不十分
原因: 経営層が形式的に“リスク所有者”を指名するも、承認権限や予算を与えない
回避策: 所有者が対策を実行できる権限・予算枠を明文化し、経営者との定期コミュニケーションを確保
8.2. 複数のリスク所有者が重複・管理不明瞭
原因: 部署をまたぐ資産に対して、二重に責任設定してしまう
回避策: 1つの情報資産につき最終責任者は1名にし、連携先をサブ責任者として明記
8.3. リスク所有者が退職・異動で不在になる
原因: 人事異動の際に“リスク所有者”の承継が行われず、そのまま空席
回避策: 管理台帳を半年~年1回見直し。異動前に引き継ぎを行い、文書化して周知
9. Q&A:ISMSリスク所有者に関する素朴な疑問
9.1. 「リスク所有者とリスク対応者は同じ?」
回答: 基本的には異なります。リスク所有者は最終的な責任と意思決定を行い、具体的な対策はIT部門や総務部などが実施する形です。
9.2. 「複数資産を1人のリスク所有者が兼任してもいい?」
回答: 可能ですが、あまりにも範囲が広いと管理が雑になるリスクがあります。適度に資産をグルーピングし、負担を分散させることが望ましいです。
9.3. 「リスク所有者は経営層でなければならない?」
回答: 大きなリスク(経営判断が必要な領域)は役員レベルが所有者になるケースも。ただし、システム単位で部長クラスが担当するなど、組織に合わせ柔軟に設定可能。
9.4. 「リスク所有者を変更する時は?」
回答: 退職・異動の場合は、管理台帳を直ちに更新し、後任への引き継ぎを確実に実施。社内公知も必須。
10. まとめ:ISMSでのリスク所有者の役割・責任を明確にしてスムーズなセキュリティ運用を
10.1. 記事の総括:ポイントの再確認
リスク所有者: リスク対応策の最終的な判断・責任を担う存在
責任範囲: 資産やリスクごとに割り当て、意思決定・承認・報告ラインを明確化
運用ノウハウ: 定期的に監査・レビューし、異動や新規事業に応じて所有者を見直す
審査・監査で評価: “誰が意思決定しているか”が明確だと指摘を受けにくい
10.2. 次のアクション:導入・見直しステップ
リスク資産の整理: どの部署がどの情報資産を扱っているか可視化
リスク所有者の割り当て: 経営層や部門長と調整し、役割と権限を付与
ドキュメント化・周知: 社内で共有し、退職・異動時にも引き継ぎを行う
PDCAの定期実施: 内部監査やレビュー会議で不備を発見し、改善
あとがき
リスク所有者を明確にすることは、ISMS運用においてリスク対応のスピードや正確性、責任範囲の可視化を大きく左右します。誰が最終的に判断し、どんな権限を持つのかが分からないままでは、日常のリスク対応が遅れ、インシデント発生時に混乱を招く可能性大です。本記事を参考に、自社の情報資産やリスクレベルに合わせ、リスク所有者を適切に設定し、円滑なISMS運用と審査合格を目指していただければ幸いです。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
コメント