ISMSのバックアップとは?具体的なやり方や参考例を初心者にもわかりやすく解説!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月24日
- 読了時間: 9分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 本記事の目的と想定読者
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を導入する際、バックアップは欠かせない取り組みの一つです。データが失われると、業務が止まったり、お客さまの信用を損なう可能性があるため、ISMSの「可用性」を確保する上でもしっかり対策する必要があります。
こんな方にオススメ:
これからISMS(ISO27001)を取得・導入したい企業担当者
バックアップのやり方や頻度、仕組みをどうすればいいか悩んでいる初心者
内部監査や審査対応で「バックアップ運用が不十分」と指摘された経験のある管理者
1.2. ISMSにおけるバックアップの重要性
情報セキュリティ三要素: “機密性”“完全性”“可用性”のうち、バックアップは特に“可用性”を支える核心的な対策。
復旧手段としての役割: ランサムウェアなどによる攻撃や、ハードウェア故障、誤操作によるデータ消失にも迅速に復元する基盤となる。
審査での評価: 「バックアップがない」あるいは「テストしていない」という状況は、ISO審査で不適合になるリスクが高い。
2. ISMSのバックアップとは?基本概念と初心者が理解すべきポイント
2.1. バックアップの定義
バックアップとは、大切なデータのコピーを別の場所・形式で保管しておくことです。
完全性の確保: データが壊れたり改ざんされたとき、元のデータに戻す。
可用性の確保: 事故や災害後に業務を早期復旧するための“保険”。
2.2. ISMS規格上の位置づけ
ISO27001 附属書A: たとえばA.12.3(バックアップ)などで、組織は定期的にバックアップを行う必要があると示唆。
内部監査での重点項目: PDCAサイクルの“Do”部分で、バックアップが実際に計画通りに行われているか確認される。
2.3. 初心者が知っておくべき専門用語
RPO(Recovery Point Objective): どの時点までデータを復元できればよいか→ “バックアップ頻度”に影響
RTO(Recovery Time Objective): 復旧に必要な時間の目標→ “どのくらい早く再開できるか”
ディザスタリカバリ(DR): 大規模災害時に、システムをどのように復元するか決めるしくみ
3. バックアップの目的とメリット:ISMS視点から考える
3.1. 企業リスクを低減するための仕組み
事故や故障、攻撃に備える: ハードディスク故障、ウイルス感染、誤操作などが起きても、バックアップがあれば元に戻せる。
業務継続を可能に: 大規模障害でも“事業継続計画(BCP)”を支える重要施策として位置づけられる。
3.2. 顧客・取引先からの信用度アップ
コンサル視点: 取引先の企業は「どれほどデータを安全に扱い、問題が起きても早く復旧できるか?」を見ている。
具体例: 製造業のA社は、大手取引先から「バックアップの頻度と保存先を教えてほしい」と求められ、整備したことで受注拡大に成功。
3.3. 審査にも有利
バックアップが不十分な場合: 可用性確保の観点で不適合を受ける可能性が高い。
適切な運用: ログや復元テスト記録を示すことで、“実際に機能している”と審査員に証明できる。
4. 実務で使えるバックアップのやり方:ステップと仕組み
4.1. ステップ①:バックアップ対象の選定
優先すべきデータ: 顧客情報、契約・財務資料、基幹システムデータなど重要度の高い資産。
現場の声を聞く: 部署ごとに「このファイルがないと困る」などを挙げてもらい、リストを作る。
4.2. ステップ②:バックアップポリシーの策定
例: 「平日は差分バックアップ、週末はフルバックアップ」「月に1回はオフライン保管」
RPO/RTO設定: 復旧がどこまでの時点・どのくらいの時間で完了するべきかを決めて、対策コストを調整。
4.3. ステップ③:運用ルールとテストの実施
ローテーション運用: 同じ媒体を使い続けると破損リスクがあるため、複数のバックアップ媒体を交代で使用。
復元演習: 「きちんとデータが戻せるか」を四半期に一度など実践テストし、結果をログとして保管すると審査で◎。
4.4. ステップ④:保管場所とセキュリティ対策
オフサイト保管: 災害リスクを考慮して、別拠点やクラウドに保存。
暗号化やアクセス制御: データの持ち出しや漏えいを防ぐため、パスワードや暗号化ソフトを導入。
5. バックアップとISMS審査対応:よくあるチェックポイント
5.1. 運用記録の証拠
審査員が見るもの: いつ・誰が・どのファイルをバックアップしたかのログ、テスト復元の記録、使用メディアの管理台帳 など。
コンサル事例: あるIT企業では、バックアップ成功時のメール報告を自動化し、ログをまとめて保管→ 審査員への提示が楽に。
5.2. 復旧テストと可用性管理
「運用しています」と言っても、テストがゼロだと実効性に疑問が残る
プロの視点: 復元テストも含め、「何分で復元完了できるか?」を測っておけばRTO検証ができ、審査時にアピール可能
5.3. バックアップの範囲や頻度
不適合例: 重要システムを月1回しかバックアップしていない→ RPOに合わないのでは?
回避策: 必要に応じて部分的に毎日・週1回・月1回など多層的なスケジュールに分け、証拠を文書化
6. バックアップ運用の具体例:業種別ケーススタディ
6.1. 製造業A社:拠点間バックアップで災害リスク低減
仕組み: 毎日差分バックアップを自動実行し、本社サーバーと工場サーバーで相互にデータをコピー。週1回フルバックアップをオフサイトストレージに保存
審査対応: 復元テストを月1回行い、その結果をレポート化→ 不備が指摘されずに審査合格
6.2. IT企業B社:クラウドバックアップ+暗号化で国際規格にも対応
方法: 社内システムデータを毎日クラウドに自動バックアップ。暗号化キーは別管理サーバーで保管
メリット: GDPRなど国際的データ保護にも適合しやすく、顧客にも安心感を提供
注意: クラウドベンダー側の障害リスクも考慮し、別リージョン・ローカルHDDなど二重保存を検討
6.3. 金融機関C社:多段バックアップとDRサイト運用
特長: メインデータセンター⇔ 予備データセンター間でリアルタイム同期+日次フルバックアップをオフライン保管
効果: 大規模災害でも数時間以内の復旧を実現、金融当局監査でも高評価
コスト考慮: 大規模になりがちだが、金融サービスの信頼確保とのバランスで必須投資と判断
7. バックアップ運用の落とし穴と回避策
7.1. バックアップメディアの未暗号化
原因: 管理が面倒という理由でUSBやHDDを暗号化せず保管→ 紛失時に情報漏えいリスク
回避策: 暗号化ツールやパスワード保護を必ず設定し、保管台帳に鍵情報も管理
7.2. スタッフ異動でノウハウが引き継げない
原因: 担当者が1人で実施しており、マニュアル化不十分。退職・異動で運用が止まる
回避策: 手順書を作り、複数担当者でローテーション。研修や引き継ぎ会を実施
7.3. テストをしないままの“飾り”バックアップ
原因: 実行ログだけ残して、復元可能かは未検証→ 本番でデータ戻せずパニック
回避策: 半年~1年に一度、復元演習を実施しレポート化。RTO/RPOが本当に守れるか確認
8. Q&A:ISMSのバックアップに関する疑問
8.1. 「バックアップ頻度はどれくらい必要?」
回答: 情報更新頻度や業務インパクトで変わる。たとえば金融取引データはリアルタイム同期も検討すべき、一方、更新が少ない設計データなら週1回でも十分など
8.2. 「クラウドバックアップだけで十分?」
回答: 災害やクラウド障害リスクを考え、二重化(別クラウドやオンプレ保管)を検討。暗号化・認証を厳重にすることも必須
8.3. 「小規模企業にとって安上がりな方法は?」
回答: 差分/増分バックアップ+クラウドストレージを併用し、重要データだけフルバックアップを物理メディアに保管。スモールスタートし、必要に応じ強化
8.4. 「バックアップ対象外のシステムはISMSで問題ない?」
回答: ISMS適用範囲外でも、万が一のリスクは残る。業務上重要ならスコープ検討を。審査的には範囲外でも、全社BCP視点で影響が大きいなら再考すべき
9. まとめ:ISMSのバックアップとは?具体的なやり方や参考例を初心者にもわかりやすく解説!
9.1. 記事の総括:ポイントの再確認
バックアップはISMSで“可用性”を確保し、システム障害や攻撃からの復旧手段となる
具体的なやり方: (1)対象データ選定→(2)ポリシー策定(RTO/RPO)→(3)運用・テスト→(4)保管場所・セキュリティ検討
参考例: 小規模差分バックアップ、クラウド暗号化、DRサイトなど、多様な方法が存在
審査でのポイント: ログやテスト復元の記録をしっかり残す、対象外の理由が合理的かなどを明確に
9.2. 次のアクション:導入フローのおさらい
リスクアセスメント: どのデータが重要で、どの頻度・復旧時間が要求されるか
バックアップ手順・ツール選定: フル/増分/差分、クラウド/オンプレ、暗号化方式など
運用体制構築: 担当者を決め、マニュアル化し、復元テストを定期実施
審査・監査対応: 証拠書類(ログ、手順書、テスト記録)で裏付けし、可用性対策としてアピール
あとがき
ISMSのバックアップは、企業が扱う情報を守るための“最後の砦”です。さまざまな災害や攻撃シナリオから事業を継続するうえで、どんな手法・頻度でバックアップを取るか、そしてどこに保管し、どう復元テストを行うかが鍵を握ります。本記事のステップや他社事例を参考に、まずは自社のリスクとコストバランスに合ったバックアップ体制を整え、スムーズなISMS審査合格と、実際のセキュリティインシデント対応能力向上を同時に達成してみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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