ISMS管理責任者とは何をする人?具体的な職務内容・選任方法・成功事例を紹介
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月18日
- 読了時間: 14分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
本記事では、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)で欠かせない役職となる管理責任者について、具体的な役割や責務、選任方法、そして成功事例を紹介します。
想定読者:
ISMSをこれから導入しようと考えているが、管理責任者をどう選ぶか迷っている担当者
すでにISMS運用中だが、管理責任者が不在または形骸化していると感じている管理職
セキュリティの知識は浅いが、ISMS導入プロジェクトで責任者を任されそうな方
1.2. なぜISMS管理責任者が重要なのか?
ISMSは情報セキュリティを守る仕組みを組織全体に根付かせるための仕組み。その中心となり指揮を執るのが管理責任者です。
管理責任者が不在、または機能していないと、外部審査での不適合や情報漏えいリスクが高まる。
コンサル視点: 「管理責任者がしっかりリーダーシップを発揮している企業」は、セキュリティ事故や監査での不適合が少なく、認証取得もスムーズに進む傾向があります。
1.3. 本記事で得られるメリット(職務内容・選任方法・成功事例 など)
ISMS管理責任者が担う具体的な仕事と責任範囲がわかる
管理責任者を選任する際のポイントや必要スキルを理解できる
実際の成功事例から学ぶ導入・運用のコツ
チーム体制づくりや社内連携の方法まで参考にできる
2. ISMS管理責任者とは?基本的な役割と責務
2.1. ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の概要と管理責任者の位置づけ
ISMS: ISO/IEC 27001に基づき、組織の重要情報を守るためのフレームワーク。
管理責任者: 経営層と現場の間に立ち、リスクアセスメントやセキュリティポリシーを推進し、ISMSを実際に運用する“指揮官”の役割を担う。
2.2. 管理責任者が担う主な役割(リーダーシップ・方針策定・マネジメントレビュー など)
リーダーシップ: チームや他部署を巻き込み、リスクアセスメントや管理策を円滑に実行
方針策定: 経営トップと相談し、セキュリティポリシーや目標を決め、社内に周知
マネジメントレビュー: 定期的にセキュリティ運用状況を経営層に報告し、改善策を提案
2.3. コンサル視点:管理責任者が存在しない場合のリスク
混乱: 情報セキュリティ上の問題が起きても、誰が最終判断を下すか不明→ 対応が遅れる
外部審査: 「責任者は誰か?」と聞かれて答えられない、または曖昧→ 不適合を指摘される可能性大
セキュリティ文化の不在: ルールがあっても現場が守らず、形だけの運用になりがち
3. 管理責任者の具体的な職務内容
3.1. リスクアセスメントの推進と管理策の選定
リスクアセスメント: 情報資産を洗い出し、脅威や脆弱性を考慮してリスクレベルを判定→ 適切な管理策(附属書A参照)を導入
管理責任者の役割: リスク評価手順を定期的に見直し、更新が必要な場合は周囲に指示→ 経営層に報告
3.2. セキュリティポリシーの策定・改訂と周知徹底
ポリシー: 経営トップの意向を反映し、組織全体で守るべきセキュリティルールを文書化
周知: 定期研修やメール通知、ポータルサイト掲載などで社員に浸透させる
実務例: 新たなクラウドサービス導入に合わせて、ポリシーを改訂し、全社員へアナウンス
3.3. セキュリティ教育計画の立案・運用
教育計画: 年間スケジュールでeラーニングや集合研修を組み込み、内容や対象を決定
コンサル経験: 中小企業でも短時間の定期研修を続けるだけで、外部審査時に社員がしっかり回答できるケースが多い
3.4. インシデント発生時の統括対応・報告フロー
統括対応: インシデントが起きたら、管理責任者が中心となり原因調査、被害拡大防止、顧客や取引先への報告を行う
報告フロー: 社内連絡網を事前に定義し、緊急時はすぐに経営層や関連部門へ共有
3.5. 内部監査・外部審査対応の指揮
内部監査: チェックリストを準備し、担当部門と日程調整→ 指摘内容をフォロー
外部審査: 管理責任者が審査員とやり取りして、運用実態や文書を証明
メリット: 管理責任者が運用全体を把握しているので、不適合が出ても迅速に是正策を導入できる
4. 管理責任者に求められる能力・スキルセット
4.1. 情報セキュリティに関する専門知識(規格理解・リスク分析 など)
規格理解: ISO27001や関連規格(ISO27017, ISO27018など)を把握し、必要な管理策をイメージできる
リスク分析: 脅威・脆弱性・影響度を評価し、どんな対策が適切か判断する
4.2. 経営視点やリーダーシップ(他部署と連携するコミュニケーション力)
リーダーシップ: 経営層の支援を仰ぎつつ、現場社員を動かす調整能力が必要
コミュニケーション: 情報システム部門、総務、営業など横断的に交渉・周知する力
4.3. 計画立案・プロジェクト管理力(タスクとスケジュールの管理)
プロジェクト進行: リスクアセスメントや文書整備、教育を計画的にすすめる
スケジュール管理: 外部審査日程から逆算し、内部監査や書類確認の日程を調整
4.4. コンサル経験:不足スキルを補うための研修・資格取得事例
資格例: ISMSリードオーディターコースを受講、情報処理安全確保支援士など
企業事例: 管理責任者候補が半年間の研修を受け、ITリテラシーを高めた→ 外部審査合格につながった
5. 管理責任者の選任方法とプロセス
5.1. 候補者のスキル評価・適正チェック(内部昇格か外部採用か)
内部昇格: 組織をよく知っており、人脈がある→ 部門との連携がスムーズ
外部採用: セキュリティ専門スキルや豊富な導入経験を即戦力として活用
コンサル視点: 実務に必要なスキルとリーダーシップを両立できるか見極めが重要
5.2. 経営層の意向・リソース配分(予算確保や権限付与)
権限付与: 管理責任者が情報セキュリティ方針や予算、人事権に一定の影響力を持てるよう調整
事例: 大企業で経営層が「情報セキュリティは投資」と認識し、管理責任者に十分な予算を割り当て→ 導入がスムーズに進んだ
5.3. 選任後の引き継ぎ・体制づくり(現場リーダーとの連携)
引き継ぎ: 前任者やIT部門から文書やログなどの保管場所、リスク評価表の更新情報をしっかり受け取る
体制づくり: 定期ミーティングを設け、リスクアセスメント・監査結果などを共有
5.4. 他社例:IT企業・製造業・サービス業での選任パターン
IT企業: CTOや情報システム部長が兼任する例が多い
製造業: 品質管理部門と連携しやすい管理職が兼任
サービス業: 総務・人事を束ねる管理職が担い、現場スタッフ教育に注力
6. 成功のための組織体制:管理責任者を中心にどう動かすか
6.1. ISMS推進チーム・プロジェクト体制の作り方
チーム: 管理責任者をリーダーに、IT・総務・人事・営業など横断的にメンバーを配置
メリット: 各部門の視点を取り入れる→ リスクを漏れなく把握し、全社体制でセキュリティを高められる
6.2. 各部門との役割分担(IT部門、総務、人事、現場部門 など)
IT部門: ネットワーク・サーバー管理策、ログ取得など技術面
総務: 物理セキュリティ、文書管理、廃棄ルール
人事: 退職者アカウント・教育記録など
現場部門: 実際の運用ルール遵守。作業手順とセキュリティを両立
6.3. マネジメントレビューでの経営層との連携
マネジメントレビュー: 半年~年1回程度、経営層がリスク評価の結果やインシデント報告を確認→ リソース投入を決定
コンサル視点: 経営層が積極的に関与すると、下への指示が迅速になり導入がスムーズ
6.4. 成功事例:組織的にサポートされた管理責任者が短期導入を実現
事例: 製造業B社で、管理責任者の提案に経営層が即決→ 部門横断チーム発足→ 半年でステージ2合格
7. よくある不安・疑問と対策
7.1. 「管理責任者の負担が大きすぎる?」 → チームと権限移譲で解決
原因: 全業務を一人で抱え込むと過労やミスが増える
対策: プロジェクトチームを編成し、部門リーダーをサブ責任者として協力体制を作る
7.2. 「セキュリティ専門知識が不足している?」 → 研修や外部コンサル併用
実例: IRCA認定リードオーディター研修を受け、規格理解を深める
外部コンサル: リスクアセスメントや文書整備で不足スキルを補う
7.3. 「他の業務と兼任は可能?」 → 中小企業での兼任パターンと成功のコツ
成功例: 総務部長やIT部長がISMS管理責任者を兼務し、チーム制で負担を分散
コンサル視点: 適切なサポート(コンサル・ツール)があれば兼務でも十分可能
7.4. 「内部監査員や他の役職との違いは?」 → 役割分担を明確にする方法
内部監査員: 運用実態をチェックする監査担当。管理責任者は監査結果の是正まで含め統括
明確化: 「誰が監査を行い、誰が対策を責任もって実行するか」を文書化
8. 管理責任者が現場で行う運用実例
8.1. 日常的なリスクモニタリングと更新手順
運用例: 報告窓口を一本化し、ヒヤリハット事例を月に一度管理責任者が集計→ 小さな問題も見逃さない
改訂: リスクが上昇した場合、附属書Aの管理策を再評価し、運用ルールを更新
8.2. 社員意識向上のためのミニ勉強会・啓発メール配信
ミニ勉強会: 20分ほどでフィッシングメール対策やUSB紛失防止策を解説
啓発メール: 最新のセキュリティ事故ニュースを共有し、教訓を伝える
8.3. インシデント発生時の対応:初期対処・関係部門の連携・報告書作成
初期対処: まず被害拡大を止めるため、該当システムの遮断やアクセス権停止
報告書: 事故概要、原因、再発防止策をまとめ、マネジメントレビューで再評価
8.4. コンサル経験:些細なトラブルを大事故にせず抑えた企業事例
事例: 社員が怪しいメールを受信→ 管理責任者に即連絡→ 早期対応で感染拡大を阻止→ 取引先への影響も出ずに済んだ
9. 成功事例:管理責任者を中心にISMS認証を円滑に取得した企業
9.1. IT企業A社:プロジェクトマネジメント手法を応用→ ステージ2審査を不適合ゼロで通過
背景: IT部門長が管理責任者に就任→ タスクをWBS(作業分解構造)化し、進捗管理
結果: 半年以内に文書整備・内部監査を完了→ ステージ2で指摘ゼロ
9.2. 製造業B社:現場リーダーとの協力で不良率や情報漏えいリスクが激減
方法: 管理責任者が現場リーダーと週1回ミーティング、作業実態を把握→ セキュリティ手順を分かりやすく作成
効果: 生産工程のデジタル化も進み、不良率の低減と機密図面の漏えい防止に成功
9.3. サービス業C社:管理責任者が経営層と二人三脚、短期導入に成功→ 取引先拡大
ポイント: 経営トップが積極支援し、予算を確保→ 管理責任者が社内教育を一気に推進
成果: 認証取得後、大手顧客との契約が増え、売上10%アップ
10. 具体的な運用フロー・チェックリスト作りのポイント
10.1. リスクアセスメントから管理策適用宣言書への連動
運用例: リスク評価結果→ 選んだ管理策を「適用宣言書」に整理→ 文書で管理策の理由を示す
ポイント: 管理責任者が中心となり、社員や各部門と協議してリスクレベルに応じた対策を選ぶ
10.2. 文書整備(セキュリティ手順、運用マニュアル)の簡潔化と定期見直し
注意: 分厚いマニュアルになりがち→ 部分ごとにシンプル化し、社員が読んで理解しやすい形に
改訂頻度: 半年~1年ごとに見直しし、クラウドサービス利用や組織変更に対応
10.3. 社員教育プログラムの作成と受講記録の管理
プログラム例: 新入社員研修→ 年1回の全社研修→ 部門ごとの専門研修
記録: 受講名簿、テスト結果、アンケートを保管→ 外部審査で証拠となる
10.4. 内部監査と外部審査への事前準備(監査質問リスト、ログ保管 など)
内部監査: 指摘事項を早期に発見→ 管理責任者が対策を主導
外部審査: 質問例やログ、教育記録を用意し、審査員にスムーズに提示できるようにする
11. 経営層や他部署への説得・巻き込み術
11.1. コストとリターンを数値化してプレゼン(情報漏えい時の損失比較)
やり方: 万一漏えいが起きたときの損失額(賠償金・信用低下)と、ISMS導入費用を比較→ 経営層が納得しやすい
事例: ある企業で1件の情報漏えい賠償が数千万円→ ISMS導入コストを下回り、導入決定
11.2. 適用範囲を段階的に拡げるなどのスモールスタート案
スコープを絞る: まず本社や主要部門のみ→ 認証取得後に他拠点に展開
メリット: 一度ノウハウをつかめば拡張が簡単、現場負担も軽減
11.3. 成功体験の共有や社員表彰制度でモチベーションアップ
成功体験: 一度認証取得の成功を味わうと、社員が「やればできる」と意識アップ
表彰: ISMS導入に貢献したチームや社員を社内報や朝礼で称え、セキュリティ文化を醸成
12. ISMS認証後の維持と管理責任者の役割継続
12.1. 毎年のサーベイランス審査と3年ごとの更新審査
サーベイランス: 年1回または半年ごとに運用状況を簡易確認→ 重大問題があれば是正要求
更新審査: 3年周期でステージ2相当の審査を再度受け、継続の可否を判断
12.2. 継続的なリスク評価とマニュアル更新
理由: IT環境やビジネス環境は常に変化→ 過去のリスク評価が古くなると漏れが発生
コンサル体験: クラウド移行や新サービス開始時に管理責任者が軸となり、リスクを再評価する例が多い
12.3. 管理責任者交代時の引き継ぎと運用ノウハウ蓄積
交代: 転勤・退職などで管理責任者が変わる場合、文書と実務ノウハウを詳しく引き継ぐ
ノウハウ蓄積: 過去のインシデント対応や監査報告を保管し、新任者がすぐ参照できる
13. Q&A:ISMS管理責任者に関するよくある疑問
13.1. 「資格や学歴は必要?リードオーディター研修を受けるメリットは?」
回答: 必須資格はないが、ISO27001リードオーディターコースを受けると規格理解が深まり審査対応に役立つ
コンサル談: 情報処理安全確保支援士など国家資格を持つと社内外で信頼性UP
13.2. 「管理責任者が辞めたらどうする?」→ 次の候補者育成
回答: 次期担当候補を常に育成し、リスクアセスメントや内部監査のノウハウを共有
対策: ドキュメントに運用ルールを書き込み、引き継ぎ手順も用意
13.3. 「他部署の協力が得られない…対処法は?」
回答: 経営層の後押しや、メリット(リスク低減・仕事効率化)を説明→ 部門の利点を具体的に示す
具体例: 生産部門の場合、不良率削減や顧客信用アップなどを強調
13.4. 「大規模企業と小規模企業での役割の違いは?」
回答: 大規模では専任部署が発足、小規模では管理責任者が他業務と兼任しやすい
コンサル視点: 組織規模に応じてチーム体制とツール導入を調整し、運用効率を高める
14. まとめ:ISMS管理責任者とは何をする人?具体的な職務内容・選任方法・成功事例を紹介
14.1. 記事の総括:管理責任者が鍵を握るISMS運用成功
管理責任者はISMSの軸となり、リスクアセスメントから社員教育、内部監査や外部審査対応まで主導
しっかり機能すると、情報漏えいリスクが下がり、外部審査合格率も高まる
14.2. まずは現状分析と適切な候補者選びから着手
選任: 経営層と相談し、リーダーシップと基礎的セキュリティ知識を持つ人材を選ぶ
不足スキルは研修やコンサルの力を借りて補う
14.3. 最後のメッセージ:強いリーダーシップでセキュリティ体制を進化させよう
ISMSは継続的な改善が大切。管理責任者が主体的に動き、チームと共にセキュリティを社内文化として根付かせる
行動: 今回紹介した職務や選任方法、成功事例を参考に、企業の安全と信用度アップを目指そう
おわりに
ISMS管理責任者は、情報セキュリティにおける要となるポジションです。
組織内のルール策定やリスク管理、社員教育など、多方面の業務を取りまとめるため、リーダーシップとセキュリティ知識が求められます。
適任者をしっかり選び、全社的なサポート体制を築くことで、認証取得も短期間で進み、企業の安全性や取引先からの信頼が格段に高まるはずです。
本記事の内容を参考に、ぜひ管理責任者を中心としたISMS運用の強化を進めてみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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