ISMSで重要な供給者とは?外部委託先やベンダー管理の実務ポイントを徹底解説!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月18日
- 読了時間: 15分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
本記事では、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の運用に欠かせない「供給者」について、具体的な役割や管理の方法、そして実際の契約上の注意点や監査・モニタリングのコツなどを解説します。
想定読者:
ISMSを導入・運用中で、外部委託先(クラウドサービス、ITベンダーなど)の管理方法を知りたい担当者
「供給者管理」がISMSの審査で指摘され、改善策に悩んでいる管理職
ベンダーや委託先との契約で失敗したくない企業の責任者
1.2. なぜISMSで供給者管理が重要なのか?
ISMSは情報漏えいリスクを含め、さまざまな脅威から組織の情報を守る枠組み。その中で、企業内部だけでなく、外部の供給者(サプライヤー・委託先・ベンダー)もリスク要因となり得ます。
供給者のセキュリティ管理が不十分だと、外部からの攻撃や供給者側の不正によって情報漏えいが起きたり、サービス停止などの問題に発展する可能性が高いです。
ISOコンサルタント視点: 供給者管理が不十分だと、外部審査でも指摘されることが多く、重大不適合に繋がるケースも珍しくありません。
1.3. 本記事で得られるメリット(外部委託・ベンダー管理・リスク対応など)
供給者がどんな範囲を指すか、具体的に理解できる
契約やリスク評価の際に気をつけるポイントがわかる
成功事例や失敗例から学び、自社のベンダー管理を改善できる
監査やモニタリング手法を知ることで、情報セキュリティレベルを高められる
2. ISMSにおける供給者とは?
2.1. 用語の定義:サプライヤー、外部委託先、クラウドサービスプロバイダ など
供給者(サプライヤー): ISMSでは、組織のために商品やサービスを提供する外部の相手を指します。外部委託先(コールセンター、IT開発など)やクラウドサービスプロバイダなども含まれます。
具体例:
クラウドサービス(AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなど)
システム開発会社
コールセンター業務委託先
物流・配送サービス
ポイント: 供給者から組織が受けるサービスの中に、機密情報や個人情報が扱われる場合は特にリスク管理が必要です。
2.2. ISO27001規格での「供給者管理」の位置づけ(附属書Aとの関連)
ISO27001の附属書Aには、外部委託先やサプライヤー管理に関する管理策が含まれています。
管理策の目的: 供給者契約時のセキュリティ要件を定義し、契約書や覚書で明確化することや、リスク評価を実施しておくこと。
コンサル経験: 外部審査では、「契約書にセキュリティ条項が盛り込まれているか」「リスクアセスメントで供給者のリスクを評価しているか」がよく確認されます。
2.3. コンサル視点:供給者管理を怠った場合のリスク・事例
事例: 委託先が情報漏えいを起こし、自社の顧客データも流出→ 顧客への賠償・信用失墜が発生
理由: 「委託先だからコントロールできない」と放置した結果、リスクに気づかず大きな損害を被る
対策: 供給者を含めたリスクアセスメントや契約での明確なセキュリティ要求が不可欠
3. 供給者(外部委託先・ベンダー)の具体的な種類と役割
3.1. クラウドサービス・データセンター事業者
クラウドサービス: SaaS、PaaS、IaaSなど形態は多様→ 責任分界点を明確にする必要あり
データセンター: 物理サーバーを預けたり、ネットワークを委託するケース→ 物理セキュリティや電源、ネットワーク可用性の管理をチェック
3.2. システム開発・運用を担うITベンダー
システム開発委託: ソースコードの所有権やバグ修正プロセスなど契約で取り決める
運用委託: 運用中のログ、監視体制、インシデント対応窓口をベンダーと協議し、契約書に明記
3.3. コールセンターや物流など業務委託先
コールセンター: 顧客データや問い合わせ内容を扱う→ 漏えいリスクが高い
物流: 商品や書類配送の過程で情報が外部に流出しないよう、梱包や伝票管理のルールを設定
3.4. コンサル談:業種・業態別に増える供給者管理の重要ポイント
IT企業: クラウド環境+外部開発チーム→ 多数のベンダーが絡む
製造業: 部品サプライヤーや生産委託先、図面の取り扱いがリスク
サービス業: コールセンター・外部スタッフが多数関わる→ 個人情報漏えい対策が重要
4. 供給者管理で抑えるべき実務ポイント
4.1. 選定時のセキュリティ要件定義(契約前の評価基準)
方法: RFP(提案依頼書)やチェックリストで、セキュリティ要件を明示→ スコアリングして選定
例: 「ISO27001認証取得済みであること」「データ暗号化対応があるか」など具体的要求を記載
4.2. 契約書・SLA(サービスレベルアグリーメント)で責任分界点を明確化
契約書: 機密保持、インシデント対応義務、損害賠償範囲などを明確化
SLA: 可用性や応答時間などサービス品質を数値化→ 達成できない場合の罰則や補償も規定
4.3. リスクアセスメントにおける供給者リスクの評価方法
リスク評価: 「供給者が漏えいを起こす確率×影響度」を算出
コンサル視点: 例えばクラウドサービスの停止リスクが高い→ 代替策やバックアップ先を用意する
4.4. 契約後のモニタリング・監査(定期報告やオンサイトチェックなど)
定期報告: 月次や四半期で運用レポートやログ解析結果を共有
オンサイト監査: 大規模・高リスク委託の場合、実際に現地訪問しセキュリティを確認
実務例: ある企業は年1回ベンダー監査を実施し、是正要求をフィードバック→ インシデントゼロを維持
5. 必須書類・記録の例:契約書・管理策適用宣言書・監査報告
5.1. 契約書・覚書に含めるセキュリティ条項(秘密保持、インシデント対応 など)
秘密保持契約(NDA): 取り扱う情報の範囲と保護義務を明確化
インシデント対応条項: 事故が起きたら何時間以内に報告、原因調査や損害賠償の範囲は?など
5.2. 管理策適用宣言書(附属書A対応策のうち、供給者関連の適用可否)
適用宣言書: ISO27001の附属書A管理策を自社状況に合わせて「適用 or 非適用」を整理
供給者関連: A.15(サプライヤー関係)、A.13(ネットワークセキュリティ)等に注目
5.3. 定期監査報告書・運用レポート(ログ・パフォーマンス・障害報告 など)
事例: クラウドベンダーが提供する稼働率やセキュリティレポートを毎月チェック→ SLA違反がないか監視
コンサル経験: 形だけ保管でなく、リスク高い箇所を重点的に分析し、社内周知まで行う
5.4. 不備の多い書類パターンと整備のコツ
不備例: 契約にセキュリティ条項がない、過去のレポートが散乱して見つからない
整備のコツ: 契約書テンプレを作成し、チェックリストで抜けを防止。レポートはクラウド管理で検索性UP
6. リスク管理:供給者が引き起こすセキュリティリスクとは?
6.1. 外部委託先からの情報漏えい・改ざんの可能性
事例: 委託先スタッフが顧客データを持ち出し、SNSに流出
対策: アクセス権限を最小限にし、持ち出し禁止ルール、監視ログを契約書に盛り込む
6.2. システム障害や停止が自社サービスへ影響を与えるリスク
例: クラウドサーバーがダウン→ 自社ECサイトも停止、売上損失
契約: SLAで可用性(99.9%)を設定し、違反時のペナルティを定める
6.3. 派遣・常駐スタッフが内部情報を不正利用するリスク
原因: IDやパスワード共有、退職後の権限削除漏れなど
対策: 入退室管理、アカウント管理フローを監査。派遣契約で守秘義務を厳格に
6.4. クラウド事業者への依存度が高まる際の対策ポイント
依存リスク: 1社に集約しすぎると障害時にバックアップがない
コンサル視点: 重要データは別クラウドやオンプレにバックアップを用意、DR(災害復旧)対策を検討
7. 契約時に見落としがちな項目:秘密保持・インシデント対応・終了時の処理
7.1. NDA(秘密保持契約)でカバーすべき情報範囲
例: 顧客情報、技術仕様、図面など具体的に定義。口頭情報も対象か明記
注意: 対象外の情報を定義し、契約終了後も機密保持義務が続くかどうかも明確化
7.2. インシデント発生時の報告義務や損害賠償の責任分担
報告義務: 何時間以内にどの連絡先へ報告するか→ 曖昧だと事故拡大の危険大
損害賠償: 限度額や例外条件。保険加入の有無も要確認
7.3. 契約終了時のデータ返却・破棄手順(クラウド上のデータ含む)
実務: サーバーやストレージに残ったデータの削除証明書を発行してもらう
事例: ベンダー解約後にデータ消去がされず、情報漏えい事件に発展→ 信用失墜と損害
7.4. 成功事例:契約書で明確に規定し、トラブルを回避できた企業ケース
具体例: コールセンターA社が、インシデント対応プロセスと責任範囲を細かく書面化→ インシデント発生時に素早い連携で被害最小化
8. 監査・モニタリング:供給者が本当にセキュリティを守っているかの検証
8.1. 供給者に対するISMS的な監査方法(質問リスト、現地訪問 など)
質問リスト: ネットワーク構成、社員教育、ログ管理などを確認
現地訪問: データセンターや開発拠点に出向き、物理セキュリティや実運用をチェック
8.2. レポート共有(SOC2レポートや外部監査報告書)を活用するメリット
SOC2レポート: AICPAが定める監査基準で、SaaSベンダーなどが発行
外部監査報告書: 供給者が自社のセキュリティを独立第三者にチェックしてもらった結果→ 依頼側の手間が減る
8.3. 実務例:定期的なオンライン面談や月次報告会で運用状況を確認
オンライン面談: コストをかけずに担当者と進捗や問題点を話し合える
報告会: 月次でKPI(稼働率、障害件数、インシデント状況)を共有→ リスクを早期に発見
8.4. コンサル経験談:供給者監査をしっかり行い、不具合や不正を未然に防いだ成功事例
事例: IT企業B社が外部開発チームを年2回監査→ 小さなセキュリティホールを素早く修正し、大きなトラブルを避けられた
9. 具体的な対策事例:どう管理すればいいのか?
9.1. クラウドベンダーの場合の責任分界点の明確化(IaaS, PaaS, SaaSの違い)
IaaS: ベンダーがインフラを管理し、OSやアプリは自社→ 自社責任範囲が大きめ
PaaS: ミドルウェアや開発環境までベンダー→ 自社はアプリ開発とデータ保護に注力
SaaS: ベンダーがほぼ全体を管理→ 自社はアカウント管理やデータの使い方に責任
9.2. ITシステム開発委託:ソースコード所有権や納品後の保守フロー
所有権: 開発完了後、ソースコードが自社に帰属するか、ベンダーにライセンス料を払うのか
保守フロー: バグ修正、機能追加、リリース手順を契約書に明記し、インシデント時の対応を決める
9.3. データセンター利用:物理セキュリティチェックリストの活用
確認項目: 入退室制限、監視カメラの配置、災害対策(耐震・消火設備)など
事例: データセンター訪問時にチェックリストを使い、実際に鍵や電子錠が正常に機能しているか確認
9.4. サービス業委託(コールセンターなど):個人情報や顧客データの取り扱い制限
ルール例: 顧客情報へのアクセス権限を最小化し、録音内容の保存・削除を管理
コンサル視点: クレジットカード情報を扱う場合、PCI DSSのような別規格にも準拠が必要
10. 成功事例:供給者管理を強化してISMSを維持・向上させた企業
10.1. IT企業A社:外部開発チームをリスク評価し、定期監査で不正防止→ トラブル激減
背景: 開発委託先が増え、ソース管理やアクセス権が複雑化→ リスクアセスメントを強化
結果: 定期的なオンライン監査とレポート共有を実施→ 不正ログインや情報漏えいがゼロに
10.2. 製造業B社:サプライヤーとの契約を見直し、サーベイランス審査で不適合ゼロ達成
方法: 部品納入業者と秘密保持契約を再締結し、在庫管理システムの権限を厳格化
効果: 外部審査で「供給者管理が適切」と評価→ 不適合ゼロ合格
10.3. サービス業C社:クラウド利用とISMSの融合で顧客満足度UP、信用度向上
事例: 顧客データをクラウドに移行し、供給者(クラウドベンダー)の監査を実施
成果: インシデント発生時も可用性を維持し、顧客が不満なく利用できた→ 信用度アップと売上増加
11. 供給者選定・評価に役立つフレームワークやツール
11.1. リスクアセスメントツール(Excelテンプレ・クラウドソリューション など)
Excelテンプレ: シンプルなリストでリスクを点数化、優先度を見える化
クラウド型: ベンダーとの共有も容易で、リアルタイムに評価結果を更新
11.2. 質問書・チェックリスト(財務健全性、セキュリティポリシー、実績 など)
事前質問書: 供給者に対し、セキュリティ施策や組織体制を回答してもらう→ スコアリング
用途: 大手取引でも中小でも活用可。回答を比較して最終選定に役立つ
11.3. SOC2やISO27001認証を供給者に要求する際のポイント
SOC2レポート: SaaSベンダーのセキュリティ・可用性などを監査した報告書→ コスト削減につながる
ISO27001認証: 委託先もISMS導入済みだと、リスクマネジメントが共通言語で進めやすい
11.4. コンサル視点:シンプルなテンプレを使い、短期間で評価を回す事例
短期間評価: A4一枚に必要項目をまとめ、サプライヤーに記入してもらう→ 数日で回収しリスク比較
メリット: 全てを深掘りせず、重要な数項目だけ重点管理→ 成果が早い
12. よくある失敗パターンとその対策
12.1. 供給者が下請けに再委託しており、実態把握できない
原因: 契約で「再委託を禁止 or 事前承認」としていない→ 下請けが勝手に使われる
対策: 再委託の可否や条件を契約書に明記し、報告義務を設定
12.2. 契約時にインシデント対応ルールを決めず、発生後に混乱
ケース: 事故が起きたが、報告経路や責任分担が不明→ 被害拡大
対策: インシデント時の連絡先、報告期限、原因調査手順、損害賠償の範囲を契約書に記載
12.3. 定期監査をサボってしまい、外部審査時に不備指摘が続出
背景: 忙しさで契約時の監査計画が有名無実化→ 不適合を見逃す
解決: 半年や1年に1回のスケジュールを厳守し、結果を文書化してフォロー
12.4. 対策:契約書・SLA・監査サイクルを明文化し、管理責任者を設ける
具体例: 供給者管理を管理責任者(ISMS推進者)が統括→ ドキュメント整備、監査実行、是正指示を行う
結果: ミスが減り、外部審査でも明確な回答が可能に
13. Q&A:ISMS供給者管理に関する疑問
13.1. 「小規模企業でも複数の委託先があるが、全部管理対象?」
回答: 重要情報やシステムに関わる委託先はすべて対象。リスクレベルに応じた管理策を設定する
例: 紙ベースの資料だけ扱う委託先も、顧客データを含むなら要注意
13.2. 「クラウド利用時の責任分界点はどう決めればいい?」
回答: IaaS、PaaS、SaaSいずれかで責任範囲が異なる→ ベンダーの契約書、SLAを確認し、自社が何を管理するのか明確化
TIP: ベンダーがSOC2レポートやISO27001を持っているか確認
13.3. 「海外サプライヤーをどうリスク評価する?」
回答: データ保護法制や言語・時差リスク、政治的安定性も含め評価
実例: 欧州GDPR対応や米国クラウド法など、地域特有の法規を調べて契約対策
13.4. 「内部監査とサプライヤー監査は別?どんな違いがある?」
回答: 内部監査→ 自社内運用チェック、サプライヤー監査→ 委託先のセキュリティ状況を評価
関連: ISMS認証では両方とも重視され、不備を是正することで外部審査合格につながる
14. まとめ:ISMSで重要な供給者とは?外部委託先やベンダー管理の実務ポイントを徹底解説!
14.1. 記事の総括:供給者管理がISMS運用成功のカギ
要点: 供給者(サプライヤー)との契約・リスク評価をしっかり行う→ 情報漏えいリスクやサービス停止リスクを最小化
メリット: 外部審査での不適合指摘を防ぎ、実際のセキュリティ事故も抑えられる
14.2. 最初の一歩:契約書・リスク評価・監査体制を整えておく
契約書: インシデント対応、秘密保持、終了時データ処理を明記
リスク評価: 供給者のレベルに合わせた管理策を選定
監査体制: 定期レポートや現地訪問で実際の運用を確認
14.3. 最後のメッセージ:安全な供給者ネットワークで組織全体のセキュリティを高めよう
ISMSを効果的に機能させるためには、社外である供給者のセキュリティも含めて管理することが不可欠
複数の委託先を適切にコントロールすれば、企業全体の安全性と信用度が大きく向上します
おわりに
ISMSにおける供給者管理は、組織外部のリスクを見落とさず、安全な情報セキュリティ体制を実現するための重要な要素です。
供給者(外部委託先・ベンダー)を適切に評価・契約し、定期的な監査やモニタリングを実施→ 情報漏えいやサービス停止リスクを大幅に下げられます。
加えて、外部審査(ISMS認証)でも、供給者管理が十分なら大きな不適合を回避しやすい。
本記事の内容を参考に、ぜひ供給者との契約書整備やリスク評価、運用ルール策定を進め、ISMS全体のセキュリティレベル向上を目指してみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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