ISMSと事業継続計画とは?初心者でもわかるBCP導入のメリットと失敗しない実践ポイントを解説
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月21日
- 読了時間: 13分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 本記事の目的と想定読者
情報セキュリティの強化は企業にとって避けて通れない課題です。なかでも、**ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を導入する企業が増えていますが、実は「事業を止めない仕組み」を考える事業継続計画(BCP)**との組み合わせがさらに重要となってきています。
本記事では、ISMSとBCPの基本から導入メリット、実践手順、そして失敗しないためのポイントをわかりやすく解説します。特に、
ISMSやBCPが何かよく分からない方
ISO 27001/22301の取得を目指している担当者
会社のセキュリティレベルを上げたい経営層・管理者
といった皆さまを主な読者と想定しています。
1.2. なぜISMSで事業継続計画が重要なのか?
ISMSは、「情報資産を守るための仕組み」を作ることが目的です。一方、BCPは「サイバー攻撃や災害が起きても事業を止めない仕組み」です。昨今のランサムウェアをはじめとしたサイバー攻撃や自然災害など、多彩なリスクが企業を襲うなかで、情報を守りつつ事業を継続することが最優先課題になっています。
実際、ISOコンサルタントの現場でも、「ISMSは導入済みだけど、BCPはまだ手つかず」という企業が多く見受けられます。情報資産を安全に保護しても、いざ事業全体が止まってしまっては意味がありません。両輪がかみ合って初めて、本当のリスク対策が可能になるのです。
1.3. この記事で得られるメリット
BCP導入の手順とISMSとの相乗効果が把握できる
初心者でもわかる用語解説と具体的な成功事例・失敗事例を知ることで、自社の対策に活かせる
ISOの審査でどんなポイントが評価されるのかが明確になり、準備がスムーズになる
2. ISMSと事業継続計画(BCP)の基礎知識
2.1. ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは
ISMSは、情報資産を守るための枠組み(マネジメントシステム)のことです。国際規格であるISO 27001が代表的で、機密性(Confidentiality)・完全性(Integrity)・可用性(Availability)の三要素を中心に、リスク評価と対策を継続的に行います。
機密性: 外部や不正なアクセスから情報を守る
完全性: データが改ざんされないように保つ
可用性: 必要なときに情報やシステムを使える状態にする
ISMS導入のメリットとしては、社内外への信頼度向上やリスクアセスメントの仕組み化が挙げられます。
2.2. 事業継続計画(BCP)とは
BCP(Business Continuity Plan)は、自然災害やサイバー攻撃などで重大なトラブルが発生した際にも、事業を止めずに続けられる体制を整えるための計画です。BCPはISO 22301という規格で体系化されていますが、規格取得の有無にかかわらず、多くの企業がBCPを策定し始めています。
BCPは一見「災害対策」というイメージが強いですが、サイバー攻撃への対応にも非常に有効です。例えばランサムウェアでシステムが止まったとしても、バックアップの運用や代替サーバーの準備があれば事業を継続できます。
2.3. ISMSとBCPの相乗効果
ISMSは主に「情報を適切に管理する仕組み」を作り、BCPは「事業そのものを止めない仕組み」を作ります。ここで両者を統合して運用すると、
情報保護と事業継続が両立できる
リスク評価を一元化できるため、対策の無駄が減る
マネジメントサイクル(PDCA)をそれぞれに回すのではなく、まとめて効率よく回せる
コンサル現場でも「情報資産をどこまで保護するか」「どんな時にどのシステムを最優先に復旧させるか」を同時に考えることで、コストを抑えつつ効果的なセキュリティ体制を築けると感じています。
3. BCP導入のメリット
3.1. リスク低減・ダウンタイム削減
事業継続計画の最大のメリットは、ダウンタイム(システムや業務が止まる時間)を最小化できる点です。災害や攻撃が起きても、あらかじめ決めておいた代替手段や復旧方法に沿って対応するため、大幅に業務停止するリスクが低くなります。
例:サーバー障害が起きても、別拠点のサーバーに切り替えられる仕組みを用意しておく
3.2. 社内外の信頼度アップ
BCPをきちんと作り、定期的な訓練・運用までしている企業は、取引先や顧客から「ここなら安心」と思ってもらいやすいです。実際に、大企業との取引条件に「BCPの有無」が含まれるケースも少なくありません。
3.3. ブランドイメージ・レピュテーション向上
重大なインシデントが発生しても、素早く対処して事業を継続できれば、企業のブランドイメージを下げずに済みます。逆に準備不足で長期停止すると、社会的信用を失い、顧客離れや株価下落につながる可能性もあります。
3.4. ISO審査での評価ポイント
ISO 27001の審査でも、可用性への配慮やインシデント管理体制は重要視されます。BCPをしっかり整備していると、「可用性を高める仕組みが整っている」としてプラス評価になることも。
コンサル経験では、ISMS内部監査の際にBCPの訓練記録や手順書を参考にして評価基準を補完するケースが多くありました。
4. 失敗しないために押さえるBCPの基本ステップ
4.1. 現状分析とリスクアセスメント
BCP策定の第一歩は、自社の業務フローやリスクを整理することです。どの業務が止まると致命的なのか、どのシステムが優先的に復旧すべきなのかを明らかにします。
リスクアセスメントでは、自然災害、サイバー攻撃、設備トラブルなど、想定できるリスクを洗い出し、その影響度や発生確率を評価します。
4.2. BCPの策定と文書化
現状分析が終わったら、BCPを具体的に文章としてまとめます。下記の要素を含めると分かりやすい計画になります。
復旧目標時間(RTO): どれくらいの時間で業務を再開するか
役割分担・連絡体制: 誰が何を担当し、非常時にどう連絡するか
具体的手順: バックアップからの復元手順、代替拠点への移転手順など
4.3. 運用体制構築と周知徹底
計画を作るだけでは意味がありません。周知徹底し、実際に運用できる体制を整えることが重要です。具体的には、
経営層からの方針発信
BCP担当チームの編成
定期的な研修やマニュアルの更新
を行い、全社員が非常時の動きを理解している状態を作ります。
4.4. 訓練・演習・モニタリング
BCPは策定後の訓練や演習が欠かせません。災害やシステム障害を想定したシミュレーションを行い、実際に手順どおり動いてみることで問題点や不足点が明確になります。
年間で1〜2回程度は大規模な演習をするのがおすすめです。
訓練後の振り返りを行い、BCPを随時アップデートすることで実効性が高まります。
5. ISMS視点でのBCP導入ポイント
5.1. セキュリティ三要素を踏まえたBCP設計
ISMSの根幹である機密性・完全性・可用性をBCPのなかでも意識しましょう。特に、災害時や攻撃時には「業務を止めないために可用性を優先しがち」ですが、同時に「大切なデータが漏洩していないか(機密性)」や「改ざんされていないか(完全性)」の確認も重要です。
5.2. リスク評価で重視すべき“情報資産”の特定
ISMSでは「どの情報が重要か」を明確にします。BCPでは、それらの情報が止まったり破壊されたりすると、事業にどう影響するのかを考えます。
例:顧客データが消失すると売上だけでなく、社会的信用も失う → 優先度高
5.3. システム冗長化と可用性対策
ISMSで定める「可用性確保」の一環として、クラウドサーバーや複数拠点の冗長化などを進めると、BCPにおける復旧もスムーズになります。
オンプレミスサーバーだけでなく、クラウド上にバックアップ環境を持つ企業が増えています。
5.4. インシデント管理フローとの統合
ISMSにはインシデント対応手順が含まれることが多いですが、BCPとも連動させることが大切です。
「緊急連絡先や役割分担」がバラバラにならないように、一元化したマニュアルを用意する
インシデントが発生したら、同時にBCPの復旧フェーズを起動させる
6. 失敗しない実践ポイント:よくあるつまづきと解決策
6.1. BCPが“形だけ”で終わってしまうケース
ありがちな失敗として、BCPを策定したはいいものの、「紙にまとめて終わり」「社内に周知していない」状態が挙げられます。
解決策:
定期的な演習や内部監査で、計画通りに動けるかチェック
全社的な認識を高めるための朝会・勉強会・イントラ掲示など
6.2. 予算・人材不足への対処方法
「BCPの必要性はわかるけど、人材も予算も足りない…」という声は多いです。
解決策:
最低限必要な業務やシステムに絞ったスモールスタートを実施
補助金や助成金の活用(IT導入補助金など対象となる場合あり)
外部コンサルや専門家を短期的に活用して、最初の設計を効率化
6.3. 過度な対策(オーバースペック)のリスク
逆に、なんでもかんでも冗長化やクラウド化してしまい、コストが膨らむ例もあります。
解決策:
リスク優先度を明確にし、本当に必要な箇所から対策を進める
事業へのインパクトとコストを天秤にかけて最適化する
6.4. インシデント時に運用チームが混乱する理由
いざ緊急事態が起こったとき、どこに連絡して、どう対処すればいいのかが曖昧だと混乱が生じます。
解決策:
初動対応がすぐわかるフローチャートやチェックリストを用意
代行者(バックアップ担当)を設定しておき、不在時にも対応可能にする
7. 他社の成功事例:BCPとISMSの両立で得られる成果
7.1. 製造業A社:複数拠点の事業継続を同時に確保
A社は海外にも拠点を持つ大手製造業。地震や台風など自然災害に備え、国内外に複数の生産拠点を互いにバックアップできるようBCPを構築しました。さらにISMSを導入し、生産データや顧客情報を暗号化・分散管理することでセキュリティ面も強化。結果として、ある拠点が災害で被害を受けても他拠点が稼働し、納期遅延や売上減を最小限に抑えることができました。
7.2. IT企業B社:クラウド活用で可用性を維持
クラウドサービスを利用しながらソフトウェア開発を行うB社。ネットワーク障害やサーバーダウンを想定し、マルチクラウド構成を取り入れました。ISMSの審査ポイントである「可用性」を高める施策としても評価され、BCP訓練では実際に一部のクラウド環境を落として代替環境に切り替える演習を行い、ダウンタイムをほぼゼロにできる体制を証明しました。
7.3. 物流企業C社:サイバー攻撃対策とBCP訓練を連動
物流業界では配送システムや在庫管理システムが止まると業務に大きな打撃を与えます。C社は定期的なランサムウェア対策訓練とBCP演習を組み合わせ、ネットワーク分離やバックアップ復旧の手順を実践。万が一のシステムダウン時にも在庫データを迅速に復元し、配送業務を続けられる仕組みを実装して大きな評価を得ました。
8. 審査で見られるポイント:ISMS・BCPの監査と統合運用
8.1. ISO 27001・ISO 22301の審査要件
ISO 27001: 情報セキュリティリスクへの対策が組織的に行われているか
ISO 22301: 重大な障害や災害時にも事業を継続できる仕組みがあるか
両方を取得している企業は、ISMSとBCPをセットで運用しているケースが多く、審査プロセスや内部監査でも連動した形でチェックが進みます。
8.2. 監査員が注目する“実効性”の証明
審査員は、書類上の手順だけでなく、どれだけ実際に運用できているかを重視します。
訓練実績やインシデント記録がきちんと残されているか
リスク評価が最新の脅威や災害リスクに対応しているか
PDCAサイクルを回し、問題点を改善しているか
コンサルタントとして現場を見ていると、「手順書はあるけど、実施記録が皆無」というパターンが意外と多いです。必ず運用履歴や改善報告を残しておきましょう。
8.3. 統合運用で審査負担を軽減する方法
ISMSとBCPを別々に回そうとすると、監査範囲が広くなり二重作業が発生しがちです。
文書管理を一元化し、ISMS文書にBCP要素を組み込む
監査スケジュールや対象範囲を整理し、同時に確認できる部分はまとめる
こうした工夫で審査負担を大幅に削減できます。
9. コンサルタントの視点:短期導入・効果的な運用を実現するコツ
9.1. スモールスタートと優先順位付け
大がかりな仕組みを一気に導入するのではなく、リスクが高い部分から着手する「スモールスタート」を推奨しています。
最優先のサーバーや業務を定め、そこからBCPを構築し、徐々に範囲を拡大
9.2. トップマネジメントの理解を得る方法
経営層へのプレゼンでは、被害額や風評被害などのリスクを数値化して伝えることが効果的です。具体的な数字があれば、「これは投資しなければならない」と認識されやすくなります。
9.3. 外部支援の活用と社内ノウハウ移転
専門家の力を借りると、ベストプラクティスやテンプレートをスピーディーに導入できます。ただし、コンサルタント任せでは社内ノウハウが育たないため、プロジェクトメンバーに自社担当を置き、積極的に参加させることが大切です。
9.4. 成功事例:3カ月でBCPを本稼働させた企業のポイント
ある中堅企業では、まず重要業務を営業システムと基幹システムに絞り、そこだけに集中してリスクアセスメントを行いました。テンプレートを使いながら3カ月ほどで計画策定・テスト運用を完了。規模を絞ったことで短期導入でき、後から他部門にも展開しやすくなった成功事例があります。
10. よくある質問(Q&A)
10.1. 「ISMSを導入していればBCPは不要?」
ISMSはあくまで「情報」を守る枠組みです。事業全体を止めない仕組み(BCP)を作るには、災害時の業務継続や代替手段の検討など、ISMSだけではカバーしきれない要素が含まれます。つまり、ISMSとBCPは両方必要です。
10.2. 「中小企業でもBCPを導入するメリットは大きい?」
むしろ中小企業ほど、一度のトラブルで大きく経営が揺らぐ可能性が高いです。大企業と違って余剰のリソースや拠点が少ないため、BCPの有無で倒産リスクが大きく変わります。
10.3. 「BCP導入に必要な費用は?どこから手を付ければいい?」
費用は会社の規模や業務量によって差が大きいですが、まずは重要業務を絞り込んでスモールスタートすることが多いです。必要があれば、クラウド活用や外部コンサルの部分利用など、予算に合わせた段階的導入も選択肢に入れましょう。
10.4. 「BCP訓練はどのくらいの頻度で行うべき?」
最低でも年1回、できれば半年に1回程度が理想です。新しいシステムを導入したときや、組織変更があったときにも適宜演習を行うと、計画と実態の乖離が起きにくくなります。
11. まとめ:ISMSとBCPを融合して企業の信頼と事業継続を守ろう
11.1. 記事の総括:ISMS+BCPが企業を強くする理由
ISMSは情報を守るための仕組み
BCPは事業を継続するための仕組み
両者を連携させると、サイバー攻撃や災害に強い企業体質ができあがります。
11.2. 失敗しない導入・運用のためのポイント再確認
リスクアセスメントで優先度を決める
文書化・訓練を通じて実運用に落とし込む
経営層の理解と社内周知の徹底
外部支援も活用しながら段階的にスモールスタート
11.3. 次のアクション:実際に取り組みを進めるために
まずは、自社にとって最も優先度が高い業務やシステムを洗い出し、リスクアセスメントから始めてみてください。ISMS運用担当者や経営層と連携しながら、BCPの基本構想を作るだけでも、一歩踏み出せます。最終的には訓練や演習を重ね、日々アップデートし続けることで、企業としての信頼度や存続力が大きく向上するでしょう。
あとがき
本記事では、ISOコンサルタントとしての経験から、ISMSとBCPの重要性や導入ノウハウをなるべくわかりやすくまとめました。会社の規模を問わず、有事に備えた計画づくりは早めに着手するほど効果が高まります。ぜひ、自社に合った形で取り組みをスタートさせ、着実にリスクを減らし、企業価値を守っていきましょう。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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