ISMSとクラウドサービスの利用における情報セキュリティとは?導入ポイントと対策・運用のコツを解説
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月23日
- 読了時間: 11分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 本記事の目的と想定読者
近年、多くの企業が業務効率やコスト削減を目的にクラウドサービスを活用しています。しかし、クラウド環境で**ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)**をきちんと運用するためには、オンプレミス(自社内サーバー)と異なるリスクや管理方法を理解する必要があります。
想定読者
これからISMS(ISO27001)を導入しようとする企業の担当者や情報セキュリティ責任者
クラウドサービスを活用しながらISMS運用を強化したい管理者
クラウド特有のセキュリティリスクや審査での評価ポイントを知りたい方
本記事では、クラウドサービスとISMSの関係や、導入時に押さえるべきポイント、さらに運用・継続改善のコツまでをカバーします。初心者でも理解しやすいように、専門用語を丁寧に解説し、プロのISOコンサルタントが現場で培った経験や他社事例を交えてお伝えします。
1.2. ISMS×クラウドサービスが注目される背景
DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展: テレワークや在宅勤務が当たり前になるなか、クラウド環境での業務効率が求められています。
サイバー攻撃の高度化: ランサムウェアや標的型攻撃などが増え、クラウド環境も狙われやすくなっている。
ISO審査の現場でも: クラウドを利用する際のリスク評価や管理策が、外部審査員から注目される傾向があります。
1.3. この記事で得られるメリット
クラウドサービス利用時のISMS視点でのリスク把握
導入フェーズでのセキュリティ要件定義や契約チェックのポイント
運用フェーズでのログ監視、インシデント対応、内部監査などの具体策
他社成功事例から学ぶ運用ノウハウ
2. ISMSとクラウドサービス利用の基本
2.1. ISMS(ISO27001)の概要とクラウドとの関係
ISMSとは、企業の情報資産を守るための**仕組み(マネジメントシステム)**を作り、PDCAサイクルを回して継続的に改善する枠組みです。ISO27001はその国際規格として、リスクアセスメントからリスク対応策の設定、運用、監査、是正までを要求事項として定めています。
クラウドとの関連: クラウド環境に移行することで、システムの管理範囲がベンダー側と利用企業側に分かれるため、責任分担が変わるのがポイントです。ISMSでは、この責任分担をリスクアセスメントに反映し、**コントロール(管理策)**を明確にする必要があります。
2.2. クラウドサービスの種類と特徴
IaaS(Infrastructure as a Service): AWS, Azure, GCPなど。サーバーやストレージ、ネットワークといったインフラ部分を提供。
PaaS(Platform as a Service): アプリケーションを開発・稼働させるためのプラットフォームを提供。
SaaS(Software as a Service): Google WorkspaceやOffice 365のように、ソフトウェア自体をサービスとして利用。
2.3. なぜクラウドセキュリティが注目されるのか
物理的管理がベンダー側: データセンターのアクセス管理や災害対策など、利用企業が直接コントロールしにくい部分が存在。
多拠点・多デバイス利用: リモートワークが増え、どこからでもクラウドにアクセス可能になり、攻撃対象が広がる。
規制やコンプライアンス: 顧客データや個人情報を海外リージョンで扱う場合、法的リスクが変わる。
3. クラウド利用時に考慮すべきISMSの視点とリスク
3.1. リスクアセスメントとクラウド特有の脅威
リスクアセスメントでは、オンプレミス環境以上にクラウド特有のリスクを洗い出す必要があります。
マルチテナント: 他社と同じハードウェアを共有するケースが多く、設定ミスや脆弱性が影響を及ぼす可能性。
データ所在地(リージョン): 個人情報や機密情報を海外サーバーで扱う場合、国外法規への対応が必要。
クラウドベンダー依存: ベンダー側障害、サービス終了、アップデートによる互換性問題など。
3.2. データ保護・暗号化の要点
クラウド環境でのデータ保護は、暗号化が基本です。
保存時の暗号化(at rest): データストレージに保管されるファイルを暗号化し、外部アクセスや盗難に備える。
通信時の暗号化(in transit): TLSなどのプロトコルを使い、通信経路を保護。
鍵管理: AWS KMSやAzure Key Vaultなど、クラウド提供の鍵管理サービスも活用すると運用が楽に。
3.3. アクセス管理・認証強化
MFA(多要素認証): 単なるID・パスワードだけでなく、ワンタイムパスや生体認証などを導入。
シングルサインオン(SSO): 社内アカウント管理を一元化し、認証強度を上げる。
最小権限の原則(Least Privilege): システム管理者や開発者など、必要最低限のアクセス権に絞り、不正利用のリスクを減らす。
3.4. 変更管理・バージョン管理のリスク
クラウドベンダーは頻繁に機能を更新・追加するため、サービス変更が突然行われるケースがあります。
新機能リリースや設定項目の改変で、既存のセキュリティ設定が崩れるリスク。
ISMSの運用管理プロセスにバージョンアップ時のチェックリストを組み込み、早期発見・早期対策を取ることが大切。
4. 導入ポイント①:セキュリティ要件の定義と契約チェック
4.1. クラウドサービス選定の基準
セキュリティ機能: 暗号化、ログ監査、脆弱性検知の有無を確認。
障害対応・サポート体制: 24時間監視か、メール・電話サポートの有無。
業種や法令要件: 金融や医療のように、独自の厳格な規制がある業種の場合、対応可否を要確認。
4.2. ベンダー選択時の注意点
ISO27017・ISO27018対応: クラウドセキュリティやクラウドの個人情報保護に特化した規格。これらに準拠しているとリスク軽減の目安になる。
SLA(Service Level Agreement): 稼働率や復旧目標時間(RTO)などがどこまで保証されるか。
海外リージョン: 個人情報を海外拠点に置く場合、GDPRや各国の法律への適合も考慮。
4.3. 契約段階でのセキュリティ要件・同意事項
データの帰属・管理責任: どの範囲がベンダー責任で、どの範囲が利用企業側かを明確化。
インシデント発生時の報告義務: ベンダーからの通知タイミングや手段、原因追跡の協力範囲。
DR(Disaster Recovery)やBCP(Business Continuity Plan): 自社が設定した事業継続要件に合わせて、クラウドでもバックアップ・冗長化を確保。
5. 導入ポイント②:ISMS運用とクラウド連携の具体ステップ
5.1. リスクアセスメントの再設計
従来のオンプレ環境だけを想定していたリスク評価から、クラウド特有のリスクを追加する必要があります。
内部不正: クラウド管理コンソールへの権限濫用や設定ミス
外部攻撃: レイヤー7(アプリ層)の攻撃、API不正利用
データ漏えい: リージョンやマルチテナントによる不確実性
5.2. クラウド移行プロジェクトとISMS体制の連携
プロジェクト開始時からセキュリティ担当を入れる: 後付けでセキュリティを強化しようとするとコストが増大する。
移行時チェックリスト: ネットワーク設定、権限管理、暗号化設定、監視設定などを網羅的に点検。
5.3. クラウド環境での監視・インシデント対応
ログ収集: AWS CloudTrail、Azure Monitor、GCP Loggingなどを使い、アクセスや操作履歴を記録。
SIEM(セキュリティ情報&イベント管理): 多くのサービスやデバイスからのログを一元分析し、異常を早期検知。
インシデント対応フロー: クラウド特有の障害や攻撃事例に合わせた手順書を準備。
5.4. 内部監査とマネジメントレビューへの反映
クラウド特有の監査項目: 変更管理、ベンダー責任範囲、データ保護などを重点チェック。
PDCAサイクルの運用: クラウド環境だからこそ、定期的なレビューで設定ミスや古い認証情報を早期に洗い出す。
6. 運用のコツ:クラウドサービス利用を継続的に強化する方法
6.1. 教育・訓練:ユーザーの意識向上
アクセス権限の大切さ: パスワード管理やMFAを徹底しないと、1人のミスが大規模漏えいにつながる。
フィッシング対策訓練: メールの誤クリック率を定期的に測定し、注意喚起を継続。
6.2. ログ活用と可視化
ダッシュボード: クラウドベンダー提供のモニタリング画面や独自の可視化ツールで、リアルタイムにリスクを把握。
アラート設定: 異常なアクセスや大量データ転送を検知したら即時通知する仕組み。
6.3. クラウドセキュリティガイドラインとの整合性
CIS Benchmarks: AWS、Azure、GCP向けの設定ベンチマークを参考に、セキュリティ水準を確保。
ISO27017, ISO27018: クラウドに特化した国際規格で、個人情報やプライバシー保護を強化。
6.4. 定期的な演習・脆弱性評価
ペネトレーションテスト: 実際に攻撃者になりきってシステムの脆弱性を探る演習。
レッドチーム演習: 内部不正やソーシャルエンジニアリングも含むトータルな疑似攻撃を仕掛けて対策を検証。
7. 他社事例:ISMS導入とクラウド運用を両立した成功ケース
7.1. 製造業A社:大規模オンプレからクラウド移行へのステップ
課題: 自社サーバーの老朽化と維持コストの増加。
対策: AWSへ移行しつつ、ISMSのリスクアセスメントを全面見直し。
成果: システム可用性が向上し、年間運用コストが20%削減。審査でも「責任分担の明確化」が高評価。
7.2. ITサービスB社:マルチクラウド環境のISMS統合管理
課題: AWSとAzureを併用し、サービスごとのログ管理が複雑。
対策: SIEM導入でログを一元化し、インシデント検知を自動化。
成果: 経営層へのセキュリティレポート作成が大幅に効率化。意思決定も迅速化。
7.3. 金融機関C社:内部監査を強化し、更新審査もスムーズに
課題: リモートワーク拡大に伴い、クラウド環境への移行が急務。
対策: 内部監査チームを増強し、クラウドベンダーとの連携ルートを明確化。
成果: 審査時に「インシデント対応力の高さ」と評価され、更新審査もトラブルなく合格。
8. クラウドサービス利用時の注意点とトラブル回避策
8.1. 責任共有モデルの誤解
多くのクラウドベンダーは「責任共有モデル」を採用しており、インフラ部分はベンダーが保護するが、設定やデータ管理は利用者の責任。
対策: ベンダー任せにせず、アカウント管理やネットワーク設定は自社でしっかり行う。
8.2. SLA違反やサービス障害時の対処
チェック: SLAで稼働率○%保証と書かれていても、補償範囲や申請手順などを詳細に確認。
冗長化: 重要システムはマルチリージョンや別ベンダー併用でリスク分散。
8.3. データのバックアップと移行の難しさ
ロックインリスク: 特定ベンダーの独自機能を使いすぎると移行が難しくなる。
バックアップ計画: 自動スナップショットやオフラインバックアップを用意しておく。
9. Q&A:ISMSとクラウドに関するよくある質問
9.1. 「クラウド利用でもISMSは取得できる?」
もちろん可能です。審査員はクラウド固有のリスクをどのように管理しているかを注視しますが、適切に対策を取っていれば問題ありません。Keyはベンダー責任と自社責任を明確にしてリスクアセスメントを行うこと。
9.2. 「クラウドセキュリティはベンダー任せでOK?」
ベンダーはインフラ側のセキュリティを提供しますが、アプリケーション設定やアクセス管理、データ保護は利用企業の責任が大きいです。設定ミスや権限管理不備による漏えいは頻繁に起こります。
9.3. 「小規模企業でもクラウド移行とISMS運用は大変?」
逆に、小規模企業ほどオンプレ構築コストが高くなるので、クラウドでインフラ管理を任せるほうが効率的です。ただし、認証情報や暗号鍵の管理などの基本セキュリティ対策は丁寧に。
9.4. 「クラウド上に機密データを置いても安全?」
暗号化・アクセス制御・監視強化ができていれば安全性は高いですが、運用面でのヒューマンエラーが大きなリスク。万が一に備えて常に監視・内部監査・緊急対応フローを整備するのが肝心です。
10. まとめ:ISMSとクラウドサービスを安全・効果的に運用するには
10.1. 記事の総括:ポイントの再確認
クラウド導入時のリスク評価とISMS体制の連携が鍵
ベンダー選択や契約書でセキュリティ要件をしっかり定義
監視ツールやログ分析、社員教育で継続的にリスクを管理
内部監査やマネジメントレビューを通じてPDCAサイクルをしっかり回す
10.2. 次のアクション:導入ポイントと運用のコツ
リスクアセスメントをクラウド特有の脅威に合わせて見直す
クラウドベンダーのセキュリティ機能と自社責任範囲を明確に分けて管理
運用後もログ監視・教育・監査を定期的に実施し、改善サイクルを継続
あとがき
クラウドサービスを活用する企業は増加傾向にあり、ISMSの観点からもクラウド環境をどう管理するかが非常に重要になっています。オンプレとの違いを理解し、ベンダー責任と自社責任の範囲を明確にしたうえで、適切なリスクアセスメントと運用体制を築くことが成功のカギです。本記事で紹介したポイントを参考に、安全かつ効率的なクラウド活用をぜひ実現していただければと思います。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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