ISMSのリスク対応計画とは?具体例と手順や運用のポイントを初心者向けに徹底解説
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月23日
- 読了時間: 10分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 本記事の目的と想定読者
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の導入や運用を検討している方のなかには、「リスク対応計画って具体的にどう作るの?」と疑問を持つ方が少なくありません。リスクアセスメントで“リスクを見える化”した後、それを“どう対処するのか”を行動に移すのがリスク対応計画です。
想定読者
これからISO27001の認証取得を目指す企業の担当者
すでにISMSを導入しているが、リスク対応計画に苦戦している管理者
情報セキュリティの基礎を学びたい初心者
本記事では、リスク対応計画の基本概念から作成手順、運用・継続改善のコツ、そして他社の成功事例までを丁寧に解説していきます。初心者向けにもわかりやすい言葉を使いながら進めますので、ぜひご安心ください。
1.2. ISMSにおけるリスク対応計画の重要性
リスクアセスメントだけでは不十分: どんなリスクがあるかを見つけたあと、「どう対策するか」を具体的にまとめるのがリスク対応計画です。計画がないと、日常業務で対策が後回しになり、セキュリティ対策が形骸化しやすいのです。
事故を未然に防ぎ、被害を最小化: 万が一のインシデント発生時に迅速な初動が取れるのも、事前に計画が整備されているおかげです。
審査でも重点チェック項目: 外部審査員が「リスク対応策が実行され、更新されているか」を必ず確認します。
1.3. このページで得られるメリット
リスク対応計画の基本的な考え方・作り方を具体例とともに理解できる
初心者がつまずきやすい点を克服し、認証審査や内部監査をクリアしやすくなる
他社事例から学び、自社の環境に合わせたアレンジ方法がわかる
2. リスク対応計画とは?基本概念の整理
2.1. リスク対応計画の定義
ISMSの世界では、リスクアセスメントを通じて「企業の情報資産にどんな危険(脅威)があり、どんな弱点があるか」を洗い出します。リスク対応計画は、そのリスクに具体的にどう対処するかを文書化・実行するプロセスです。
4種類の対応オプション
リスク回避: 業務フローを変えたり、新たなシステムを利用しないなど、リスクの根本を取り除く
リスク軽減: セキュリティ対策を導入するなど、リスクの発生確率や影響度を下げる
リスク移転: 保険や外部委託などでリスク負担を分散する
リスク受容: コスト対効果などを考慮し、一定のリスクを許容する
2.2. なぜ必要?リスク対応計画の目的
計画をまとめるメリット:
リスクごとに“何をいつまでに、誰が、どうやって行うか”が明確になり、実行と監視がしやすくなる
組織全体の認識合わせができ、担当者任せ・口約束に終わらない
経営層や現場担当者の一貫した対策:
経営者は予算や人員を確保しやすくなる
現場担当者は、具体的な行動指針があるため効率よく動ける
2.3. ISMS全体への位置づけ
ISMSでは「PDCAサイクル」を回しますが、リスク対応計画はその中のPlan(計画)フェーズにおいてとくに重要です。
PDCA全体の流れ: リスクアセスメント → リスク対応計画 → 実行・運用 → 監査・レビュー → 改善
3. リスク対応計画の具体例【初心者向け】
3.1. ランサムウェア対策プランの例
リスク評価: 予想される侵入経路(メール、Webサイト)と被害(データ暗号化による業務停止)
対策方針:
アンチウイルスソフトの導入・定期更新
全社員向けメールセキュリティ研修(フィッシング演習)
バックアップ体制(オフラインバックアップ)を整備
対応責任者・期限:
セキュリティ担当部門リーダーが責任者、3カ月以内に初期導入し、半年ごとに演習
必要リソース: ソフトウェア費用・研修ツール・協力部署
3.2. クラウド移行時のリスク対応計画
データ漏えいリスク:
暗号化(AES-256など)とアクセス権限管理を厳格化
クラウドベンダーのSLA・リージョン設定を確認
責任分担:
ベンダーが担うインフラセキュリティと、企業側で行う設定管理を区別
対応フロー:
移行前にリスクアセスメント再評価→ 実施担当、検証担当を明確にする
3.3. 物理セキュリティ強化の例
オフィス入退室管理:
ICカードや生体認証導入、ゲスト用来訪記録システム整備
サーバールーム管理:
施錠、防犯カメラ、温度・湿度管理、防災設備
BCP(事業継続計画)との連動:
災害や停電時のバックアップ電源、リモートワーク体制
3.4. 内部不正対策の例
アクセス権限の最小化(Least Privilege):
不要権限を定期的に削除、ロール管理で共通権限を割り当て
ログ監査:
重要データへのアクセスをすべて記録し、怪しい操作を定期チェック
従業員教育:
機密情報取り扱いルール、USBメモリやメール送信の社内ルール
4. リスク対応計画の作り方:手順とポイント
4.1. 手順①:リスクアセスメント結果の整理
ISMSで行うリスクアセスメントでは、リスクごとに「発生可能性」と「影響度」をスコア化します。
優先度の設定:
スコアが高い(発生可能性も影響度も大きい)ものから先に手をつける
例えば「高・中・低」の3段階に分類すると運用しやすい
4.2. 手順②:対応オプションの選択
リスク回避: 例えば、危険度の高いサービスを使わない、外部へのアクセス制限など
リスク軽減: セキュリティ対策導入、教育研修、監視強化
リスク移転: 保険に加入、外部専門会社にアウトソーシング
リスク受容: コスト対効果を考慮して、軽微なリスクは許容
4.3. 手順③:対策計画の詳細化
担当者・期限・必要リソースを明確に書き出す
実施ステップを箇条書きやWBS(作業分解構成)で整理
成果の測定方法(例:インシデント発生率、ログ監視結果)を設定
4.4. 手順④:承認・コミュニケーション
経営層への報告: 投資判断や責任分担の同意を得る
社内周知: 担当部署だけでなく、広く全社員に周知しておくことで“対策が現場で形だけにならない”ようにする
5. リスク対応計画の運用フェーズ:実行・監視・改善
5.1. 実行:アクションプランに基づく施策の導入
例: ファイアウォール強化、VPN導入、役割分担に沿った業務マニュアル作成
プロの視点: 実務との兼ね合いで予定が遅れがちになるため、定例ミーティングなどで進捗確認を行うと効果的
5.2. 監視:リスク対応策が機能しているかのチェック
KPIの測定:
例:メール誤送信件数、システム障害発生頻度、インシデント検知速度
ログの定期レビューや内部監査で事実を確認
不適合の早期発見: 計画と実際の運用の差異を見つけたら速やかに修正
5.3. 改善:不適合や問題発生時の是正
原因追及: 再発防止策の導入。責任者が明確でないと改善が遅れる
内部監査やマネジメントレビューを活用して改善内容を全社に共有し、次のサイクル(PDCA)に活かす
5.4. 事例:運用定着で成功した企業のポイント
製造業A社: 毎月のセキュリティ会議でリスク対応状況を確認→ 半年でインシデント発生率が半減
IT企業B社: 社員全員にメールフィルタ訓練を継続→ フィッシング誤クリック率を1/5に削減
6. ISMSリスク対応計画における審査での評価ポイント
6.1. 審査員がチェックする要素
リスクアセスメントと対応策がきちんと紐づいているか
例:リスク表と対応策表が整合性を保っているか
対策実施・改善履歴のエビデンス
対策を導入した記録やログ、日々の運用レポートなどが揃っているか
6.2. 審査での不適合事例と回避策
事例: 「計画はあるが実行されていない」or「誰がどうするか不明」
回避策: タスク管理ツールやExcelで簡単に可視化し、進捗を随時更新する。責任者へのフォローを定期化
6.3. 合格につながるアピールのポイント
経営層との連携: リスク対応計画を承認し、予算やリソースを確保している
PDCAが機能: 計画→実行→監視→見直しのプロセスが文書・証跡で確認できる
インシデントの改善事例: 過去のトラブルをどう乗り越えたか、計画が生きた証拠
7. 実務でよくある失敗事例と対処法
7.1. 形だけのリスク対応計画
原因: 作っただけで担当者が誰か不明、更新もされない
対処法: ガントチャートやRACI表(責任分担表)を用いて、実行者と期限をはっきり記載。定期レビューを制度化
7.2. 過剰な対策でコスト負担増大
原因: すべてのリスクに「回避」や「軽減」を適用しようとして費用対効果が低下
対処法: リスク受容の選択肢も検討し、リスクレベルに応じた優先順位を設定。経営判断を仰ぐ
7.3. 継続的改善が止まる
原因: 一度導入して満足し、インシデントも起きないから放置
対処法: 内部監査やマネジメントレビューで「リスク対応計画の見直し」を必ず議題に。月次・四半期のチェックが理想的
8. その他の事例:リスク対応計画を活かしてISMSを強化した企業
8.1. 金融機関C社:定期演習と投資判断の透明化
取り組み: 半年ごとにサイバー演習を実施し、新たな脆弱性発覚時は即リスク対応計画を更新
効果: 経営層が「演習結果を基に予算配分」を行う流れを構築→ セキュリティ投資がスムーズになりインシデント率が大幅低下
8.2. サービス業D社:外部委託先へのリスク対応計画展開
課題: 顧客の個人情報を委託先が処理していたが、セキュリティレベルが不明
対策: 親会社がリスク対応計画を委託先にも展開し、監査実施→ 結果、顧客からの信頼度が向上し、新規案件が増加
8.3. ITベンチャーE社:クラウド移行とリスク対応計画を同時進行
手法: AWS移行時にリスクアセスメントを再定義し、対応策をWBS化
成果: ログ監視やMFA導入など運用レベルで徹底→ データ漏えいリスクを大幅に軽減
9. Q&A:リスク対応計画に関するよくある疑問
9.1. 「リスク対応計画はどのくらいの頻度で見直す?」
理想: 年1回以上の内部監査やマネジメントレビュー時に必ずチェック
必要に応じて: 新システム導入、組織改編など大きな変更があるときも即見直し
9.2. 「小規模企業でも細かい計画が必要?」
無理に大掛かりなドキュメントを作らなくても良いが、最低限の優先度づけ・担当者・期限は明記しよう。
例:Excel1枚にリスク一覧と対策行を作るだけでも十分効果あり
9.3. 「計画書にはどんな項目を載せればいい?」
リスク名称、影響度、発生可能性、対応策、担当部署、期限、評価指標、予算など
シンプルにまとめつつ、誰が見ても行動できるレベルで記載
9.4. 「企業全体で共有する方法は?」
グループウェアやプロジェクト管理ツール(例:Redmine, Backlog, Teamsなど)で計画を常に閲覧可能に
定期報告会でリスク対応の進捗をチーム全員に報告し合う
10. まとめ:ISMSのリスク対応計画を強化し、安全かつ効率的な運用へ
10.1. 記事の総括:ポイントの再確認
リスクアセスメント→リスク対応計画→実行→監視→改善のサイクルが大事
計画には「対策内容・担当者・期限・予算・成果測定」を明記し、形骸化を防ぐ
内部監査や審査で証拠を示すために、実行履歴やログを残す習慣が必須
10.2. 次のアクション:具体的実践ステップ
リスクアセスメント結果の整理:優先度をつけて対応策を検討
リスク対応計画を文書化:短期・中期に分けて実現可能なスケジュールを設定
全社周知と実行管理:進捗を定例会などでモニタリング、問題発生時は素早く修正
継続的改善:内部監査・マネジメントレビューで定期見直し
あとがき
ISMS運用におけるリスク対応計画は、単に“文書を作る”だけでなく、日々の業務プロセスや社員教育、経営判断に密接に関わる重要な要素です。しっかりとリスクを可視化したうえで、適切な対応策を計画し、定期的に見直すことで、情報セキュリティレベルだけでなく、企業の信用度や安定した事業運営に大きく寄与します。ぜひ本記事のポイントを参考に、安全かつ効率的なISMS運用を実現してください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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