ISO9001の適用範囲とは?どう決める?決め方と参考例をわかりやすく解説!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 1 日前
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▼ 目次
1. はじめに
● ISO9001でいう「適用範囲」とは?
ISO9001の適用範囲とは、**「この品質マネジメントシステム(QMS)は、具体的にどの部門・事業・工程に当てはめるのか」**を明確に定めることを指します。たとえば、会社全体に適用するのか、特定の製品ラインや事業所だけに限るのかなど、認証を取得する範囲をはっきりさせるための設定です。
● 本記事のゴール
本記事では、ISO9001の「適用範囲」をどのように決めるのか、その考え方・ステップ・参考例を分かりやすく解説します。「どこまでを認証範囲とするべきか迷っている」「業務の一部だけを除外できるの?」といった悩みをお持ちの方が、適正かつ実務に即した範囲を設定できるようにサポートします。
2. なぜ適用範囲が重要なのか
● 審査や運用での影響
ISO9001の認証審査では、まず**「どの範囲を対象としているか」**が確認されます。適用範囲を曖昧にしたまま進めると、審査で指摘を受けたり、実運用での混乱が起こりやすくなります。
例:実は一部の製品だけ認証を取りたかったのに、全社的に適用されていると審査範囲が広がってコストや工数が増大。
● 適用範囲が不明確だと起こりうるトラブル
審査時の指摘: どこまでが範囲内かが不透明だと、審査機関から「除外内容が曖昧」といった指摘を受ける可能性。
形骸化: 実際の運用プロセスと文書の範囲がずれ、現場が混乱。
除外項目との整合が取れない: 本来は含めるべき工程を除外していると、顧客クレームやリスク管理が不十分になる。
3. 適用範囲の基本的な考え方
● 項番 4(組織の状況)との関連性
ISO9001:2015の項番 4「組織の状況」では、外部・内部の課題や利害関係者のニーズを把握して、組織のQMSの範囲を考えるよう求められています。
たとえば、「海外取引が増える→国際基準の品質管理が必要→ISO9001を全社導入」という流れにつながるケース。
● 組織の活動全体 vs. 一部プロセスのみの認証
全社的に適用: 製造業なら製造ライン・設計部門・営業部門も含める、建設業なら設計~施工~検査まで全工程を含む。
一部プロセスのみ適用: ある特定の製品・部門だけISO9001を導入し、それ以外は含めない。これは認証機関にも明確に報告する必要がある。
● ISO9001で認められる除外の範囲
ISO9001では、一部の要求事項を「自社の活動に当てはまらない」として除外できる場合があります。
代表的な例:**項番 8.3(製品やサービスの設計開発)**を除外するケース(製造元がすでに設計を完了し、自社が単に組み立てや加工のみを行う場合など)。
除外が許容される根拠を示さないと審査で指摘される点に注意。
4. 適用範囲をどう決める? 基本ステップ
1) 現状分析
まずは自社の業務全体を把握し、製品・サービス、部署、工程などをリストアップする。
例:製造業なら原材料受入→加工→検査→出荷。建設業なら設計→施工→検査→引き渡し。
2) 主な利害関係者とニーズを把握
顧客、取引先、法規制、社内スタッフなど、誰がどんな品質要求を求めているか整理。
例:大手取引先が「この製品ラインでISO9001取得してほしい」と要望しているケースがある。
3) コアプロセスとサポートプロセスの整理
受注・設計・製造・検査などのコアプロセスと、バックオフィス(人事・総務など)のサポートプロセスを分ける。
どこが品質に直接関わっているかを見極めると、除外設定もしやすい。
4) 認証範囲の候補を設定
全社か、一部の製品ラインか、特定の事業部かを絞り込む。
部門ごとに取得する場合は、対象業務と対象外をはっきり線引きする。
5) トップマネジメントの決定と文書化
経営層が最終判断し、品質マニュアルや適用範囲文書に明文化。
社員にも周知徹底し、外部にも開示できるようにしておく。
5. 製造業の具体例・参考例
● 部品加工メーカーの場合
整形・加工ラインだけISO9001に含め、設計部門は除外するケース。
外注工程(メッキや塗装など)を自社範囲に含めるかどうかで悩むことが多い。
私が支援した部品加工メーカーでは、「塗装工程は外部委託だが、最終検査は自社で行う」ため除外はせず、連携ルールをISOに含めて運用していた。結果、不良率が大幅に減少。
● 食品製造や化学工場の注意点
法規制(食品衛生法や化審法など)との整合が必要。
HACCP(ハサップ)やGMPなど、食品・化学独自の品質管理基準がある場合はISO9001との重複や共通項目を上手に活かす。
6. 建設業の具体例・参考例
● 建設会社が適用範囲を決める際のポイント
設計から施工、検査まで一貫して含めるか、それとも施工部門のみ適用するかを検討。
協力会社(下請け)をどこまでISO9001の管理下に含めるかが課題になる。
例:建築大手ゼネコンがサブコンにも品質基準を提示し、現場共有している事例が多い。
● リフォーム・小規模工事業者の場合
小規模工事業者は、必要最低限の工程だけを範囲に含めることも。
「意匠設計は外部の設計事務所に委託」「施工管理と引き渡しのみ自社でやる」といった場合、設計開発を除外するケースがある。
7. 除外項目の設定と根拠づけ
● 認証範囲から外すことができる活動例
項番 8.3(設計開発): 自社で設計をしないOEMメーカー、工事設計を外部が行う建設業者。
項番 7.1.5(監視・測定のリソース): 自社で測定機器を持たず、全て外部検査機関に委託する場合など(ただし、ほとんど例外的)。
● 除外を正当化するための根拠の示し方
審査時には「設計部門が実在しないので項番 8.3は除外」「顧客仕様のみ対応し、独自設計は行わない」など、明確な根拠を説明する必要がある。
「とりあえず面倒だから除外」はNG。実態に即した除外が求められる。
8. 適用範囲決定でよくある失敗事例と対策
● 広げすぎて運用が負担になる
例:小規模工場が全社適用を選択し、会計部門や人事部門まで対象に含めて書類作成が膨大に…
対策: 実質的に品質に影響するプロセスを中心に設定。サポート部門で必要な部分だけを取り入れる。
● 狭めすぎて顧客や審査機関から指摘を受ける
例:本来、製品の重要工程があるのに「外注だから」と全除外してしまい、審査員から「管理責任は発注元にあるのでは?」と指摘される。
対策: 顧客要求に影響する工程は基本的に含める。外部委託先も最低限の品質管理ルールを設定する。
● 現場の意見を反映せずにトップダウンで決定
現場が本当に必要と感じているプロセスが除外されると、運用に支障。
対策: 適用範囲の検討段階で、現場リーダーや管理職から意見を聞き、合意形成する。
9. 運用時に意識したいポイント(ISO9001 項番 4〜10との関連)
● 項番 4:組織の状況
適用範囲を設定する際、組織の課題や利害関係者を考慮することで、本当に必要な部分を見極められる。
例:海外輸出を強化したいなら、海外向け製品ラインを認証範囲に含めるなど。
● 項番 8:運用
適用範囲に含めた工程をどう管理するかが項番 8で求められる。
自社の製造・施工フローを可視化して、範囲内の作業手順を整備。
● 項番 9,10:内部監査・改善サイクルでのモニタリング
定期的に内部監査を実施し、適用範囲内の活動が計画どおり運用されているかをチェック。
事業拡大や組織改編があれば、範囲の見直し・更新も検討。
10. 審査機関への申請と審査対応
● 認証範囲の申請書類の作り方
事業内容や組織図、業務フローをまとめ、「どこからどこまでがISOの対象か」を明記する。
外注先が多い場合は、外部委託プロセスの管理方法を説明する書類を用意。
● 審査でチェックされるポイント
除外部分の合理性(なぜ除外しているか)
実際の活動と文書(適用範囲マニュアル)が合っているか
範囲外の活動が、品質に大きく関わる工程ではないか
● 範囲変更があった場合の対応
新製品ラインの追加や事業撤退などがあれば、更新審査や範囲拡大審査が必要。
企業合併や子会社化の場合も再検討。
11. まとめ:適用範囲を正しく設定して運用効果を最大化
● 経営方針・事業内容に合わせた柔軟な設定
ISO9001は「全部門すべて必ず含めないといけない」わけではありません。
自社が対応する製品・サービス、工程、法規制などを整理し、意味のある範囲を決めることが大切。
● 組織の変化に応じた見直しの継続
適用範囲は一度決めて終わりではありません。事業拡大や製品ラインの追加、外注先の変更などが起きれば、随時見直しを行いましょう。
● 今後のアクション
現在の業務フロー、工程、外注範囲を棚卸し
項番 4の視点(外部・内部の課題、利害関係者)から検討
トップマネジメントと現場の意見をすり合わせ、範囲を最終決定
内部監査とマネジメントレビューで適用範囲の妥当性を定期的に検証
おわりに
「ISO9001の適用範囲とは? どう決める? 決め方と参考例をわかりやすく解説!」と題して、範囲設定の考え方から除外項目の扱い、実務的な成功・失敗事例まで紹介してきました。ISO9001の適用範囲をしっかり検討することは、無理なく運用を進めるための第一歩です。曖昧なまま導入すると、審査時の指摘や現場の混乱を招くリスクがあります。逆に、きちんと適正範囲を設定すれば、品質向上やリスク低減、コスト削減など、ISO本来のメリットを最大限に活かせます。ぜひ本記事を参考にして、あなたの会社やプロジェクトに合った最適な適用範囲を設定し、ISO9001の効果を実感していただければ幸いです。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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