
▼ 目次
1. ISO27001改訂の背景と全体像
1.1 なぜ改訂が行われたのか:国際規格の動向と情報セキュリティの変化
ISO27001は、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に関する国際規格です。時代の流れや技術進歩、リスク環境の変化に合わせて、数年おきに改訂が行われています。
デジタル化の進展: クラウドやリモートワークの普及に伴い、従来の境界防御だけでは対処しきれないリスクが増加。
サイバー攻撃の高度化: ランサムウェアやフィッシングといった攻撃手法が急増し、国際規格の要求事項の見直しが求められる。
グローバルビジネスへの対応: ISO27001は世界各国で認知度が高く、企業が海外展開を行う際にも重要視される存在。
1.2 ISO27001が注目される理由:DX時代のリスク増大とグローバル要件
近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進により、企業は業務効率化だけでなく、新たなサービスやビジネスモデルを創出しています。その一方で、
取り扱うデータ量やサービス範囲が拡大
クラウド環境・モバイル端末の利用増加
他国とのデータ連携・サプライチェーンの複雑化
これらに伴う情報セキュリティリスクも大きくなっています。改訂版ISO27001はこうした環境変化に対応すべく、より実務的かつ包括的な管理策を取り入れた形で登場しました。
1.3 改訂版の概要:どのタイミングでどんな変更があったか
ISO27001は、**2022年に主要改訂(ISO/IEC 27001:2022)**が行われました。
改訂スケジュール: 各審査機関や認証機関が新規格に切り替えるタイミングが設定され、旧版から新規格への移行期限も定められます。
大きな変更点: 管理策(附属書A)の再編が目立ちますが、本体要求事項(4章~10章)にも細かな修正が加えられているため、既存認証企業は早めの移行準備が必須です。
2. 改訂版ISO27001の主要変更点:旧版との比較
2.1 4章~10章の大枠は変わらない?改訂で加わった新要求事項
ISO27001の本体(4章~10章)は、リスクベースの考え方を中心とした構成に大きな変更はありません。しかし以下のような点で補強・修正が行われました。
文書化要件の明確化: 運用手順や方針、リスクアセスメント方法の具体化。
利害関係者との連携: 外部委託先やサプライチェーン管理における要件が見直され、範囲や責任の明確化が重視。
2.2 附属書A(管理策)の再編・追加・統合ポイント
大きな違いの一つは、附属書Aの管理策が再編されたことです。
旧版では114の管理策が14のカテゴリに分かれていた。
改訂版では93策に統合され、カテゴリも新たに4つ(組織的・人的・物理的・技術的)へ再分類。
新たな管理策として、クラウドやバーチャル環境に特化した項目、脅威インテリジェンスを扱う項目などが加わり、現代のセキュリティリスクに即した構成となっています。
2.3 旧版からの変更が及ぼす影響:企業が見直すべきプロセスと文書
改訂に伴い、**SoA(適用宣言書)**やリスクアセスメントの文書で使われている管理策の番号・名称が変わるケースが多く見受けられます。
要見直し項目:
管理策リスト(旧→新へマッピング)
手順書や規程(変更された管理策が前提の記述になっていないか)
リスク評価表(リスクと管理策の関連付けが古いままになっていないか)
現場担当者が混乱しないよう、旧版→新番号への対応表を作成して周知することが大切です。
3. 既存認証企業向け:改訂版への移行スケジュールと対応の流れ
3.1 移行期間はどれくらい?認証機関が示す更新・移行の目安
通常、改訂版が発行されてから2~3年程度の移行期間が設定されることが多いです。
移行期間中は、旧版での維持審査や更新審査を受けることが可能ですが、期限までに改訂版へ移行審査を行い、認証を切り替える必要があります。
審査機関によって具体的なスケジュールが異なる場合もあるため、早めに問い合わせて情報収集をすることが重要です。
3.2 移行審査で求められるポイント:追加・修正が必要な文書や管理策
移行審査では、改訂版で新たに追加・統合された管理策や、リスク評価手順の整合性などがチェックされます。
よく見落とされがちな項目: クラウド環境のセキュリティ管理策、テレワークやBYOD(私物端末利用)のルール、脅威インテリジェンスの活用など。
文書修正例: SoAで管理策を引用している箇所、運用手順書や規程に新しい管理策番号や内容を反映させる。
3.3 スムーズな移行を進めるためのプロジェクト計画と優先度設定
プロの視点:
移行プロジェクトではまずリスク評価とSoAの整合を確認し、不足があれば新管理策を追加。
次に運用手順や教育資料を更新し、内部監査で現場とのギャップを早期に洗い出す。
移行審査直前ではバタバタしがちなので、**適切な優先度(高リスク領域→文書化→周知徹底→監査)**を設定し、計画的に進めましょう。
4. これから認証を目指す企業向け:改訂版を踏まえた導入ステップ
4.1 まずはリスクアセスメントと適用範囲(スコープ)の設定から
新規でISO27001を取得する場合も、改訂版を前提に構築するほうがスムーズです。
適用範囲の決定: 全社導入か特定部署・システムのみに限定するかを明確に。
リスクアセスメント: 情報資産・脅威・脆弱性を洗い出し、優先度の高いリスクを特定。
管理策選定: 改訂版の附属書Aを使い、必要な策をSoAに反映。
4.2 管理策選定における新・統合策への対応方法
クラウド環境や外部委託先とのやりとりが多い企業では、改訂版で追加・統合された管理策を積極的に採用する必要があります。
具体例としては、暗号化・アクセス制御の強化、ログ管理、インシデントレスポンス計画などが挙げられます。
4.3 文書化と内部監査、第三者審査までの基本的なフロー
文書化: 情報セキュリティ方針、手順書、教育プログラムなどを整備。
運用開始: 実際に社員が遵守できる形でルールを落とし込み、教育を実施。
内部監査: PDCAサイクルを回し、不備を修正。
外部審査(ステージ1・2): 審査登録機関に文書類や現場運用を評価してもらい、認証取得。
経験談:
全社一斉導入が難しい場合、スモールスタートでリスクの高い部門・部署から着手すると、失敗リスクや過剰コストを抑えやすいです。
5. 改訂ポイントの実務対応:具体的な注意点と対策
5.1 組織の状況(4章)とリーダーシップ(5章)の強化
4章では、組織が置かれる外部・内部の課題と利害関係者のニーズを把握することが要求されます。
5章にあるトップマネジメントの関与は、改訂版でも重要視されており、経営層が主導的にコミットしているかどうかが審査のポイントとなります。
5.2 計画(6章)・運用(8章)で見直すべき管理策と事例
6章の計画には、リスクアセスメントを通じたセキュリティ目標の設定が含まれ、改訂版ではクラウドやリモートワークなど新たな脅威に対する管理策が注目されます。
8章の運用では、実際に導入した管理策が正常に機能しているかをモニタリングし、継続的に改善する体制が求められます。
5.3 新たに追加・変更された管理項目に合わせた文書や手順書の整合性
外部委託先の管理やバーチャル環境のセキュリティなど、追加された管理策が運用プロセスと噛み合っているかを検証。
例えば、クラウドの利用ポリシーやプロバイダ選定基準を明文化し、内部監査のチェックリストにも新管理策に対応した項目を取り入れる必要があります。
5.4 PDCAサイクルを回して継続的なセキュリティ改善を実現するには
改訂対応はゴールではなく、常にリスクを再評価し、管理策をアップデートする姿勢が大切。
定期的な内部監査やマネジメントレビューで、「改訂版の新要件にしっかり追随できているか」も継続的にチェックしましょう。
6. 内部監査・マネジメントレビューで押さえる改訂のツボ
6.1 改訂版で指摘が増えそうな領域:教育・訓練、セキュリティ意識向上など
人的セキュリティが改訂版でも強調されており、従業員の教育・訓練プログラムが適切かどうかが審査でチェックされます。
フィッシングメール訓練や定期的なeラーニングなどを導入し、実効性をアピールすることが重要。
6.2 内部監査員が知っておきたい改訂内容:チェックリストと実務的な見方
内部監査員は、旧版の管理策番号でチェックリストを作成していた場合、早めに新管理策番号に更新。
プロの監査現場では、**「実際の業務とのマッチ度」**を重視しており、文書と現場の乖離がないかを徹底的にヒアリングします。
6.3 経営層への報告とレビュー:トップダウンで進めるためのコツ
改訂内容を簡潔にまとめた資料を用意し、経営層へ報告するのがベスト。
数値指標や具体的なリスク事例を示すと、トップマネジメントの意思決定がスムーズになり、必要なリソースを獲得しやすくなります。
7. 改訂対応を成功させるためのヒント:コンサルタントの経験談
7.1 不適合指摘を受けやすいポイント:リスク評価の不足・文書運用のギャップ
典型的なミス: 管理策が膨大になり、SoAとリスクアセスメントがつながっていない。
現場で発生するギャップ: 手順書通りの運用になっていない(口頭ベースの運用が多い)。
7.2 時間とコストを抑えた移行の進め方:スモールスタートと段階的拡大
既存認証企業が改訂版に移行する際、全社一斉に文書を作り直すと混乱が大きい。
一部の重要部門でテスト的に新管理策を導入し、問題点を洗い出してから全社展開するとスムーズ。
7.3 現場を巻き込むコミュニケーション戦略:教育・啓発の事例
社内ポータルやSNSで改訂ポイントを定期発信し、Q&Aコーナーを設ける。
実例: ある企業では、毎月1回の朝礼で「今月のセキュリティニュース」を紹介しながら改訂内容を浸透させ、内部監査の指摘件数が半減した。
8. 改訂版ISO27001の導入メリット:ビジネス拡大とリスク低減の両立
8.1 信頼性アップによる新規取引獲得や競合優位性
改訂版を取得している企業は、最新の国際基準に適合していると見なされるため、入札やコンペで加点要素になるケースが増加。
特にIT・クラウド関連企業では、顧客が安心してシステムを利用できる指標として改訂版取得を評価する動きが出ています。
8.2 情報漏えいリスクの軽減とコンプライアンス対応の強化
改訂版では法規制や業界基準との整合性がさらに重視され、違反リスクを下げる仕組みが強化。
個人情報保護やGDPRなど各種法令に対応しやすい枠組みが整っており、企業のリスクプロファイルを改善できます。
8.3 DX推進やクラウド活用でも活きる最新セキュリティ管理策
改訂版にはクラウドセキュリティ関連の管理策が拡充。サーバレスやコンテナなど新しい技術を活用する際にも、リスク評価のガイドとして役立つ。
DXとセキュリティを両立させるためには、最新の管理策を取り込みながら、柔軟な運用を行う必要がある。
9. よくあるQ&A:改訂に関する疑問を一挙解決
9.1 改訂に伴う費用増はどのくらい?コスト削減のポイント
コスト増要因: 文書修正、管理策追加のためのツール導入、教育コストなど。
削減策: 既存ルールの再利用、スモールスタートで運用実績を積んでから拡大、コンサルタントの部分活用など。
9.2 旧版の取得直後でも再度審査が必要?移行のタイミングについて
旧版を取得後も、移行期限までに改訂版への対応が求められます。
タイミング: 次回サーベイランス審査に合わせて移行審査を受ける企業が多く、無駄なコストや工数を抑えられる。
9.3 新規取得のほうが有利?旧版との比較でどう変わる?
新規取得の場合、最初から改訂版を前提にシステムを構築できるので文書の整合を取りやすい。
旧版を取得済みの企業は、移行作業が必要ですが、既存の仕組みを活かせるため、全てを一から作るよりは早い面もあります。
9.4 他規格(ISO27701、ISO27017など)との整合性はどうなる?
改訂版ISO27001と**ISO27701(プライバシー情報管理)、ISO27017(クラウド向け補強)**などは整合性を保つように設計されています。
複数規格を同時運用する場合でも、共通する要求事項を統合運用して監査対応を効率化する企業が増えています。
10. まとめ:改訂版ISO27001を味方に、情報セキュリティ体制をさらに強化しよう
10.1 本記事の要点振り返り:新要件と実務対応の整理
改訂版では附属書Aの再編や本体要求事項の一部補強がメイン。
既存認証企業は移行期間内に文書やリスクアセスメントの整合を再度確認し、新規取得企業は最新要件を前提としたISMS構築で始めるとよい。
10.2 具体的なアクションプラン:スケジュール策定と社内への周知
移行期限の確認: 認証機関のアナウンスをチェック。
内部プロジェクトチームを組成し、必要な文書修正や管理策更新を計画的に進める。
教育・意識啓発: 新・統合された管理策の内容を社員に共有し、監査への備えを怠らない。
10.3 改訂をチャンスに変え、企業成長とリスク管理を同時に進めよう
改訂版対応は負担に思われがちですが、最新のセキュリティ要件を取り込む絶好の機会でもあります。
審査に合格するだけではなく、実効性のあるISMSを運用することでビジネス拡大やDX推進にもつなげられるはずです。
【総括】
ISO27001の改訂は、単なる書面上の変更ではなく、企業の情報セキュリティ体制をより現代的・実践的なものへアップデートするための大きなチャンスです。既存認証企業は移行審査をスムーズに進めるため、管理策の見直しや文書整合を計画的に行いましょう。新規取得を目指す企業は、最初から改訂版対応で構築すれば長期的なメンテナンスコストも抑えられます。
いずれの場合も、リスクアセスメントの確かさとトップマネジメントの積極的関与が成功のカギです。今回の改訂をきっかけに、企業の競争力とセキュリティレベルを同時に高める取り組みをぜひ始めてみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている。
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