ISO9001の“組織の知識”とは?要求事項と具体的な実施内容を徹底解説!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 5月5日
- 読了時間: 8分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 本記事の目的と想定読者
ISO9001の導入を進めていると、「組織の知識って何? どこまで管理するの?」と悩む方が多いです。特に「ベテラン社員が持つノウハウや新技術の情報を、どうやって共有すればいいの?」という相談は非常に多く寄せられます。
この記事の目的:
ISO9001で定義された「組織の知識(7.1.6)」がどんなものか理解する
要求事項を満たしつつ、実務に役立つ管理・活用の方法を知る
内部監査や外部審査でもスムーズに対応し、知識管理を競争力アップにつなげる
想定読者: これからISO9001を取得・導入しようとする企業の担当者や管理職、具体的に“組織の知識”の要求を満たす方法を探している初心者の方に向けています。
1.2. ISO9001で“組織の知識”がなぜ重要?
ISO9001の2015年版では、「リスクベース思考」という考え方が大幅に取り入れられました。組織の知識を確保しないまま事業を進めると、必要な技術がわからない、ベテラン社員が退職してノウハウが消失、新技術が社内に伝わらないなど、大きなリスクにつながる可能性があります。
組織の知識を適切に管理すれば、品質管理だけでなく、企業の生産性向上や社員の成長にも直結します。
2. ISO9001における“組織の知識”とは?基本的な理解
2.1. 7.1.6 組織の知識の位置づけ
ISO9001の条文「7.1.6 組織の知識」では、企業が持っているノウハウ・経験・文書化された情報などを継続的に維持・活用し、不足があれば補うことを求めています。
例:
製造業→ 製造レシピ、ベテラン技術者の加工ノウハウ、機械の操作マニュアル
サービス業→ 顧客対応マニュアル、クレーム処理手順、経験ベースの接客スキル
2.2. リスクベース思考との関連
リスクベース思考とは「起こりうる問題を事前に想定し、対策を優先度高く打つ」考え方。組織の知識が欠落すると、業務が属人化し、突然の退職や担当変更で品質が急落するリスクがあります。
コンサル視点: 「どの知識が欠落すると大きな問題になるか」をリスト化→ そこから重点的に管理方法を考えると効果的。
2.3. 暗黙知と形式知の違い
暗黙知: 人の頭の中にある“勘”や“経験値”で、文書化されていないもの(例:職人技、ベテラン社員のノウハウ)
形式知: マニュアルや図面、手順書など、文章化・図解化されていて共有が容易なもの
ポイント: ISO9001の観点では、なるべく暗黙知を形式知に変換し、社内で共有・運用できる状態が望ましい。
3. 要求事項:組織の知識でISO9001が求めるポイント
3.1. 必要な知識を特定すること
企業が製品・サービスを提供する上で、どんな知識が不可欠かを明確にします。以下のように整理するとわかりやすいです。
製品に関する知識: 設計仕様、品質基準、関連法規
プロセスに関する知識: 製造手順、検査手順、顧客対応フロー
外部規格や法令情報: ISO規格のアップデート、業界法令、海外輸出規制
3.2. 知識を維持・利用・更新する仕組み
組織の知識がどこにあり、誰が管理し、どのように社員に共有されるかを定義します。
コンサルTIP: 年度ごとにマニュアルを改定し、社員が必ず読む仕組み(オンライン研修や朝礼紹介など)を入れると運用しやすい。
3.3. 不足する知識を取得する手段
外部研修やセミナーで新技術を学ぶ、コンサルに依頼して社内にノウハウを残す仕組みを作る…など、多角的に補う必要があります。
事例: 新製品ライン導入時に海外メーカーのノウハウが不足→ エンジニアを本社研修に派遣し、学んだ内容をマニュアル化して社内に展開。
4. 組織の知識を管理・活用する具体的な実施内容
4.1. 知識の可視化:ナレッジマネジメントツール導入
Wikiやクラウドドキュメント、ファイルサーバーなどを活用して社員が簡単に検索できる仕組みを作る
メリット: “どこに何があるかわからない”を防げる→ 各部署のベテランノウハウが共有され、若手も短時間で学習可能
4.2. OJTや教育計画:暗黙知の形式知化
ベテラン社員の頭の中にある技術や経験をインタビューしたり、作業を動画で記録→ マニュアルやeラーニングを作成
他社事例(製造業A社): 職人技を動画撮影+テキスト化→ 新人の育成期間が半分に短縮、品質バラツキも激減
4.3. 社内勉強会・共有会の定期開催
新技術の紹介や、顧客クレーム事例の対処法などを社員同士で発表し合う
成功例(サービス業B社): 月1回の“ナレッジ共有会”でクレーム対応事例を共有→ 同じトラブルを別拠点で回避でき、顧客満足度上昇
4.4. 外部ソースからの情報収集
法令改正情報を業界団体やメーリングリストで確認、海外展示会で最新技術を吸収するなど
プロのアドバイス: この外部情報を社内でどう展開し、誰が承認して運用に落とし込むかまで仕組み化すると効果的
5. よくある失敗と対策:組織の知識管理で陥りがちな落とし穴
5.1. マニュアルだけ作って実際に誰も見ない
失敗例: 立派な手順書を作ったが、現場は従来のやり方のまま→ 文書と実態が乖離し、不適合リスク
対策: “検索しやすく”“すぐ参照できる”UI設計や研修・テストを実施→ 内部監査で運用状況をしっかり確認
5.2. 暗黙知の洗い出しが曖昧
ベテランが“自分の勘”としか説明しない→ 退職や異動でノウハウ消失
コンサルTIP: “ペアワーク”“インタビュー”などで質問しながら作業手順を可視化→ 徐々にマニュアルへ落とし込む
5.3. 外部情報収集を怠り、古いままのノウハウを使い続ける
業界法令が変わったのに社内が気づかず、製品が規格外でクレーム
事例: 定期的にチェックリストで法令や業界基準をアップデート→ 安全基準や環境規制なども合わせて管理
6. 内部監査・外部審査で評価される「組織の知識」のポイント
6.1. 必要な知識を特定・文書化しているか
審査員は“どんな知識が必要で、どこにあるか”を一目で説明できるかを重視
アドバイス: “知識リスト”や“関連資料へのリンク集”を作成し、管理責任者を明示
6.2. 知識が失われない仕組み(ノウハウ継承)
ベテランが退職した途端、品質が崩れた…という事態をどう防ぐか
成功例: 新人とベテランが組むペアOJT制度、転属前にインタビューを行いマニュアル更新、などを年次計画に組み込む→ 外部審査でも“よくできている”と評価
6.3. 不足する知識を外部から取得する仕組み
新技術・法令を学ぶ研修やセミナー予算を確保→ 学んだ知識を社内で共有する場を設ける
事例(IT企業C社): 海外展示会に技術担当を派遣→ 帰国後に発表会を開き、新テクノロジーを製品開発に反映→ 顧客から高評価
7. まとめ:初心者向け!ISO9001の組織の知識とは?要求事項と具体的な実施内容を徹底解説
7.1. 記事の総括:ポイントの再確認
組織の知識の重要性: 企業のノウハウや経験値を管理しないと、品質や対応力が属人化→ リスク増大
ISO9001要求事項(7.1.6):
(a) 必要な知識を洗い出す
(b) 維持・活用・更新する仕組み
(c) 不足分を外部から取得
具体的な実施内容:
(1) ナレッジマネジメントツール導入
(2) OJTや動画マニュアルで暗黙知を形式知化
(3) 勉強会で共有→ 社員のスキル向上
(4) 法令・業界情報の取り込み
よくある失敗: (a) マニュアル形骸化 (b) 暗黙知の放置 (c) 外部情報を見落とす
監査で評価されるポイント: (a) 知識リストと参照方法 (b) ベテランノウハウの継承 (c) 外部情報収集の体制
7.2. 今すぐできるアクション:初心者が意識すべきポイント
自社が必要とする知識のリスト作り: 製品仕様・法規・顧客対応・技術ノウハウなど
暗黙知を少しずつ形式知化: ベテランにインタビュー、動画撮影、マニュアル化
ナレッジマネジメントツール導入: Wikiやクラウドで検索・更新しやすく
外部セミナー・法令情報の収集: 新技術や規制に対応→ 社内で共有し改善
内部監査でPDCAを回す: 形だけの文書でないか、更新や実態が追いついているか定期チェック
あとがき
ISO9001で定義された“組織の知識”は、企業が持つノウハウや情報資産をどう守り、活かしていくかを明確にする仕組みです。これを怠ると、ベテランの退職や技術変化への対応が遅れ、顧客からの信頼を損ねるリスクが高まります。本記事で紹介したように、まずは必要な知識をリストアップし、暗黙知をマニュアル化したり、外部研修で不足分を補うなど実践的な管理を進めてみてください。内部監査や外部審査でも、“知識管理がしっかり機能している”と評価されれば、企業全体の品質向上や競争力強化にも直結します。ぜひ、組織の知識を“形式上の要件”ではなく“強い会社づくりの基盤”として捉え、継続的に改善・活用していきましょう。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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