ISO9001で欠かせない組織図とは?必要性・作成方法&具体例・参考例を総まとめ!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 5月21日
- 読了時間: 8分

▼ 目次
1. はじめに
● ISO9001で組織図を用意する意味
ISO9001の導入でよく聞かれるのが、「組織図って本当に必要なの?」という疑問です。
ISO9001では、品質マネジメントシステム(QMS)全体を運用する上で、責任と権限をはっきりさせることが求められます。
組織図は、社内の役割や担当が一目でわかるようにするための基本的な文書として重要視され、内部監査や外部審査でもチェックされるポイントの一つです。
本記事のゴール
組織図がなぜISO9001で「欠かせない」のか、その必要性を解説
作成方法や、他社での具体例・参考例を紹介し、実際の運用に活かすヒントを提供
2. ISO9001と組織図の関係
● 項番 5:リーダーシップとの繋がり
ISO9001の項番 5では、経営層(トップマネジメント)が品質マネジメントシステムに対して明確なリーダーシップと方向性を示すことを求めています。
組織図は、そのリーダーシップに基づいた指揮命令系統や責任範囲をわかりやすく示す文書です。
例えば、どの部署が品質管理を担っていて、経営層からどのように報告・連絡が行われるのかを図で示すことで、経営方針が現場に正しく伝わっているかを審査員や社員が把握しやすくなります。
● 項番 4〜10全体への影響
ISO9001は項番 4(組織の状況)から項番 10(改善)まで、品質マネジメントに必要な要件を定めていますが、いずれの項番でも誰が担当かが重要。
組織図があると、「この工程はこの部署が責任を持つ」「顧客クレームの対応はこの課が行う」と明示しやすくなり、内部監査や外部審査でもスムーズに説明が可能です。
3. 組織図は本当に必要?その目的とメリット
● 責任・権限を見える化
組織図があれば、品質管理やクレーム対応、内部監査などで「誰が責任を持つのか」が一目でわかります。
従業員が困ったときにどこに相談すればいいのか、顧客が連絡先を聞いたときにどう案内するのかなど、業務がスムーズに進みやすくなります。
● 業務効率と社内コミュニケーションの向上
ISO9001導入企業の支援でよく感じるのは、「組織図がなかったことで、部署間の連携が遅れていた」という事例です。
組織図によって「このタスクは品質管理課と技術課が共同でやるのか」などが明確化し、コミュニケーションロスを減らす効果が期待できます。
● 監査時や顧客対応のスムーズ化
内部監査や外部審査で「この部署の責任者は誰?」と聞かれても、組織図があればすぐに示せる
顧客からの問い合わせで「品質保証責任者を紹介してほしい」と言われた場合も、組織図があれば迅速に案内できます
4. 組織図の作成方法:基本ステップ
組織体制・部署構成の洗い出し
部署、課、チームなどの正式名称と役割をリストアップ
派遣社員や外注スタッフなども必要に応じて記載
役職や職制を整理
部長・課長・リーダーなどの上下関係を表にまとめる
役職に伴う責任や権限も考慮しながら図に落とす
実際の業務プロセスとの調整
ISO9001 項番 4のプロセスアプローチを踏まえ、工程ごとの担当部署を確認
組織図と業務フローがかけ離れないよう、部署が持つプロセスを明確に
ドラフト図の作成と関係者レビュー
VisioやPowerPoint、オンラインツールなどで試案を作る
経営層や各部署リーダーに見せて、誤りや不明点を修正
最終承認・社内周知
経営トップの承認を得て、最終版を社内ポータルや掲示板に掲載
文書管理ルールに沿って、改訂履歴や更新日を明記
5. 具体例:業種別の組織図サンプル
● 製造業の例
品質管理部(QC課、検査課など)、製造部(工程別課)、開発部(設計、R&D)、営業部などを水平に並べ、上には工場長や部長、さらに上に社長や経営管理部門を配置
品質保証責任者が経営層直下に置かれている例も多く、クレーム対応や不良対策が社長まで直通になりやすい
● 建設業の例
本社:品質管理室、安全管理室、営業部、経理部など
現場:施工管理課、協力会社連絡係など
ゼネコンだと全国拠点や下請け会社が絡むため、各現場に品質管理担当者を置き、本社品質管理部がまとめる構成が多い
● サービス業の例
顧客サポート部門(コールセンター)、営業部門、バックオフィス(経理、人事)、品質管理部門(サービス品質向上チームなど)
ISO9001ではサービスの品質(顧客満足度、クレーム管理)が大切なので、対応責任者を組織図でわかりやすく示す
6. 参考例:成功した組織図活用事例
● 事例A:経営層と品質担当の連携が強化
ある中堅メーカーでは、品質部門が総務の下位組織になっていて、経営層と距離があったため、クレーム対応が遅れがちだった
組織図を改訂し、品質部門を経営直下に移動。結果、クレームや不具合情報が経営層に速やかに届き、改善スピードがUP
● 事例B:小規模事業での導入コスト削減
従業員20名の工場で、部門区分が曖昧だったため、誰が品質責任者なのか不明瞭
組織図を作り、社長直下で品質リーダーを任命。すると内部監査が明確になり、審査時の指摘事項も減って取得コストを抑えられた
● 事例C:拠点が多数ある大企業
建設会社の大手は全国に現場が点在
組織図を拠点別に作りつつ、本社の品質管理部との連携ルートを一本化→内部監査で現場状況を共有しやすくなり、統一した品質基準を維持
7. 組織図作成時に押さえるべき項番の要件
● 項番 5.3:組織の役割・責任・権限
ISO9001 項番 5.3では、役割や責任、権限を定義することを求めています。
組織図はこの要求を満たす主要な文書の一つ。
例:組織図に「品質管理課長→品質目標達成責任」と注釈を入れるなどで、視覚的にわかるように。
● 項番 7.1.2:人的資源
人的資源(人材確保)も組織図と繋がっています。誰がどの部署でどの工程を担当するか明示することで、教育や力量評価がスムーズに。
例:組織図と連動した人材育成計画を立てやすくなる。
● 項番 8.5:運用の管理
実際の製造や施工、サービス提供の工程管理はどの部署が行うのかを示すのに、組織図が役立つ。
協力会社や外注先との関係を示す場合もある。
8. 組織図作成でよくある失敗と対策
● 実態と合っていない形だけの図
「こんな部署実際には動いてない…」など、表面上の組織を飾りで描いただけ。
対策: 部署リーダーや現場社員にヒアリングし、実務ベースで役割をまとめる。
● 作り込みすぎて複雑化
細かい役職やプロジェクトチームまで盛り込み、大きな図になりすぎて読みにくい。
対策: 上位のシンプルな組織図と、詳細版(部内の小さなユニットなど)を分けると運用しやすい。
● 更新ルールがない
人事異動や組織改変があっても、図が放置されると審査で指摘を受ける。
対策: 文書管理ルールに「組織図改訂時の承認フロー」を明確にし、半年〜1年に一度は見直しする習慣を。
9. 運用と更新:組織図を活かすコツ
● 内部監査や定期会議で確認
組織図を形骸化させないために、内部監査のチェック項目に「組織図と実運用の整合性」を入れる。
変更があれば、会議の場で迅速に共有→改訂の手続きを行う。
● ITツール・クラウド活用
紙の組織図だと更新のたびに印刷・配布が必要で面倒
Googleドライブや社内ポータルに電子版を置き、常に最新版を閲覧できるようにする
● 社内教育での活用
新人や異動者が「この部署が何をしているか」を理解するのに役立つ
例:オリエンテーションで組織図を見せ、「品質管理課はこういう役割」と紹介する
10. 組織図の作成にかかる時間と工数
● 小規模企業:1〜2週間
従業員が数十名程度の会社なら、主要部署を洗い出し、経営層の承認を得るまで1〜2週間ほどで作成が可能。
現場の人に確認して、現実と合っているかをチェックする時間が必要
● 大規模企業:1ヶ月以上
従業員が数百~数千名規模になると、拠点や事業部が多く、調整に1ヶ月以上かかるケースもある。
国際的な拠点がある企業では、海外子会社の位置づけや報告ルートも組織図に入れるか検討する
● 工数削減のコツ
既存の会社案内やWebサイトに載っている組織図をベースに、ISO9001の項番 5.3に合うよう修正
文書管理ルールと合わせて改訂履歴を明記し、迅速にバージョン更新しやすい仕組みを整える
11. まとめ:ISO9001で欠かせない組織図を効果的に活用しよう
組織図は、ISO9001における責任・権限の明確化と、各部署のつながりをわかりやすく示すための重要な文書です。
項番 5.3を中心に、トップマネジメントがどのように品質方針を現場に伝えているかを示す鍵にもなる
内部監査や外部審査、顧客監査でも「誰が品質責任を持っているのか?」を一目で説明できる
最後のアドバイス
現場と乖離しない組織図を作る
部署リーダーのヒアリングや実務の確認が大切
定期的な改訂・管理ルールを決める
人事異動や組織変更を反映し、最新版を常に社内共有
ITツールで運用を効率化
クラウドや社内ポータルで簡単に閲覧・改訂できるようにしておく
こうしたポイントを押さえれば、ISO9001の審査対応だけでなく、日常的な社内コミュニケーションや業務効率の向上にも大きく貢献します。ぜひ参考にしていただき、活きた組織図を運用してみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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