ISO9001リスクマネジメントとは?わかりやすく解説!参考例・具体例で失敗しない運用ガイド!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 5月26日
- 読了時間: 9分

▼ 目次
1. はじめに
● ISO9001リスクマネジメントとは?この記事のゴール
ISO9001は、品質マネジメントシステム(QMS)を運用する国際規格ですが、2015年版では「リスクと機会の考え方」を明確に取り入れた点が特徴的です。
リスクマネジメントとは、組織の活動を行う上で発生しうる問題を事前に見つけ出し、被害やトラブルを最小限に抑える取り組みを指します。
本記事では、ISO9001におけるリスクマネジメントの目的や、実務でどうやってリスクを洗い出し、管理すればよいかについて、具体例や参考例を交えながら分かりやすく説明します。
さらに、失敗しない運用ガイドとして、リスク評価や改善策の進め方を解説しますので、ぜひお役立てください。
2. そもそもISO9001のリスクマネジメントとは?
● リスク及び機会の概念(項番 6.1)
ISO9001:2015の項番 6.1では、リスクと機会の両面を評価して計画を立てるように求めています。
リスク: 望ましくない出来事が発生する可能性(例:不良品の発生、納期遅延、クレーム増加など)
機会: プラスの可能性(例:新技術の導入でコスト削減、品質向上が図れるチャンスなど)
企業がこれらを管理することで、顧客満足度を高め、不測のトラブルを減らすことができます。
● 品質マネジメントシステム(QMS)内での位置づけ
リスクマネジメントは、ISO9001の項番 4〜10すべてに関わる考え方です。特に 項番 4(組織の状況)と項番 6(計画)でリスクや機会を捉え、項番 8(運用)で具体的な対策を行い、項番 9(評価)や項番 10(改善)で結果を振り返るというPDCAサイクルを繰り返します。
不適合やクレームが発生したら「リスクが現実化した」と捉え、再発防止策(是正処置)を実施するイメージです。
3. リスクマネジメントを導入するメリット
● 不適合やクレームの予防
「リスクを想定して事前に対策を打っておく」という発想は、不適合やクレームを減らすうえでとても効果的です。
例えば、私が支援したある電子部品メーカーでは、設備故障リスクを優先度高く設定し、定期保守計画を強化した結果、ライン停止トラブルが激減し、不良率も下がったという成功例があります。
● プロセス改善と効率化
リスク評価の過程で、企業が抱える無駄な手順や業務の非効率を発見できるケースが多いです。
例えば、工程FMEA(故障モード影響解析)を実施している企業では、工程別にリスクを分析する過程でボトルネックや余分な作業が見つかり、工程の最適化に成功した事例があります。
● 経営層への信頼度アップ
リスクマネジメントを整えていると、取引先や顧客に「この会社はしっかり管理している」という印象を与えやすいです。大手企業や海外取引でも、リスク管理の姿勢が契約条件になることが増えています。
4. 項番 6.1(リスク及び機会)のポイントをやさしく解説
リスクと機会を特定
項番 4.1(外部・内部の課題)と4.2(利害関係者のニーズと期待)を考慮。例えば、新技術導入のチャンスや品質トラブルの可能性を洗い出す。
評価と優先度付け
発生頻度・影響度・検知度などをスコアリング。数値化できなくてもHigh/Medium/Lowで区分けするだけでOK。
例:頻度×影響度の掛け算でリスクレベルを算出。
対策の計画と実行
項番 6.2(品質目標)や項番 8.1(運用の計画及び管理)で具体的な対策を導き出す。
例:クレームを想定した受付フローの確立、重大不良が起きないよう追加検査導入など。
モニタリングと改善
実施後に結果をチェックし、内部監査(項番 9.2)やマネジメントレビュー(項番 9.3)で効果を検証。
課題があれば是正処置(項番 10.2)を行い、再度リスク評価を更新する流れ。
5. 具体例・参考例:リスクマネジメントの運用シーン
● 製造業の例
不良品リスク: 原材料がロットごとにばらつきがある → 受入検査を強化し、サプライヤー評価も定期実施
設備故障リスク: メンテナンス不足でライン停止 → 予防保全スケジュールを作り、部品交換期限を管理
原材料高騰リスク: 複数のサプライヤーを確保し、価格交渉の余地を作る
● 建設業の例
工期遅延リスク: 天候・協力会社の都合 → 予備日を確保し、施工計画に余裕を持たせる
品質リスク: 施工ミスや図面変更 → 施工計画時のチェックリスト化、現場リーダーの教育強化
安全リスク: 高所作業や重機使用 → 労働安全衛生法に基づく安全管理手順を再確認
● サービス業の例
クレーム発生リスク: オペレーターの対応ばらつき → 定期研修とモニタリングで改善
個人情報漏えいリスク: 顧客データ管理が曖昧 → アクセス権管理ツール導入、定期監査
スタッフ教育不足リスク: 研修制度が整っていない → 研修カリキュラムを明確化しスキルマップを運用
6. リスクの洗い出しと優先度設定:実務のステップ
事業範囲と目標の確認
「自社はどんな品質リスクを抱えているか?」を考える前に、製品・サービスやターゲットを明確化
リスク抽出の方法(ブレインストーミングやチェックリスト)
部署横断で会議する、過去の不良やクレーム、内部監査指摘からヒントを得る
評価基準(発生頻度×影響度など)
例えば 1〜5 のスコアで数字を掛け算し、優先度を合計点で決める
マトリクス化し、優先度を可視化
発生確率と影響度を縦横に並べたリスクマトリクスで、どのリスクを先に潰すか判断
7. 項番 8(運用)におけるリスク対策の実践
● 具体的な措置例
工程FMEA(Failure Mode and Effects Analysis): 不良要因を事前に潰すため、工程を細かく分析
外注先管理: リスクと機会の観点から、サプライヤーを定期評価し、品質不安が高い業者には改善要求
● 内部監査との連携
内部監査で「リスク管理は実際に行われているか?」を確認。
例:リスク対応策が文書化どおり実施されているか、効果はあるかなどを監査リストに盛り込み
● 事例:リスク評価シートの運用
私のクライアント企業では、リスク評価シートをExcel化し、各部署が月に1度更新して経営会議で報告。
新たに出てきたリスクや外部環境の変化(原材料価格・顧客要求など)もリアルタイムで把握可能。
8. 失敗しない運用ガイド:よくある落とし穴と対策
● 失敗例A:リスクが大まかすぎて活用できない
問題: リストが「売上減少リスク」「クレームリスク」など抽象的
対策: プロセスや部署ごとに具体的な失敗例や原因を挙げる。例えば「検査工程で○○不良が発生するリスク」
● 失敗例B:リスク評価だけして対策が実行されない
問題: 書類だけ整備して満足、実務の行動に繋がらない
対策: 改善計画に担当者、期限、必要リソースをセットで明記。内部監査でフォローアップ
● 失敗例C:更新や見直しを怠り、陳腐化
問題: 1回作成したリスク表を放置し、組織や市場が変化しても反映されない
対策: 項番 9(評価)や項番 10(改善)で、定期レビューの仕組みを作る
9. 成功事例:リスク管理を活かして業績アップした企業
● 事例A:中小製造業が不良率とクレームを半減
背景: 同じ不良が繰り返し発生し、クレームが多かった
施策: 内部監査の際にリスク評価を徹底し、もっとも影響が大きい工程に投資・改善
結果: 半年で不良率が50%減、顧客満足度が向上し、リピート注文増
● 事例B:建設業で協力会社リスクを最小化
背景: 協力会社ごとの施工品質ばらつきが大きく、工期遅延やクレームが多発
対応: リスク評価表を導入し、事前に施工計画と業者の実績をチェック。協力会社間の情報共有強化
効果: 遅延が月10件→2件に減少。元請会社の評価が上がり、受注拡大
● 事例C:サービス業でクレーム対応力が強化
背景: コールセンターで顧客対応のばらつきがありクレーム多発
対策: 「クレーム発生リスク」を最優先に設定し、統一マニュアルや研修を充実
成果: クレーム率が前年比40%減、業務効率もアップ
10. よくある質問Q&A
Q1: リスクと機会のバランスはどう取る?
項番 6.1では「リスク及び機会を考慮せよ」とあるので、機会(ビジネス拡大・新技術導入など)も評価し、前向きな対策を検討
Q2: 数値評価が難しい場合はどうする?
定量的にできないリスクも、High/Medium/Lowなどで段階をつけ、原因や対策を明文化するとよい
Q3: リスク管理の担当部署はどこが理想?
組織規模や業種によるが、多くは品質管理部門や管理部門が取りまとめ役に。経営層の関与が不可欠
11. 改善策を継続するためのPDCAサイクルとマネジメントレビュー
項番 9(評価)との連動
内部監査や顧客満足度調査から新しいリスクを発見し、報告・検討
マネジメントレビュー(項番 9.3)
経営層がリスク状況を確認し、対策への予算や人員を決定
PDCAを回し続ける
リスクや外部環境は常に変化するため、定期レビューがリスクマネジメント成功の鍵
12. まとめ:ISO9001リスクマネジメントとは?わかりやすく解説!参考例・具体例で失敗しない運用ガイド
ISO9001のリスクマネジメントを上手に運用すれば、企業が抱える品質トラブルやクレームを事前に防ぎ、経営を安定させる強力なツールとなります。
項番 6.1を中心に、リスクと機会をバランスよく評価し、対策を具体化する
内部監査やマネジメントレビューとの連携でPDCAサイクルを回すことで、改善活動を継続的に推進
事例で示したように、業種別の具体例を参考に、自社に合ったリスク管理の仕組みを構築しましょう
最後に
リスクマネジメントは決して難しいものではなく、「何が起きるか?」を考えて備えるというシンプルな姿勢が大切。
形だけのリスト作りに終わらず、現場と経営層が連携して対策を実行すれば、クレーム減やコスト削減など大きな効果を得られます。
ぜひこの記事を参考に、ISO9001リスクマネジメントを失敗なく運用し、品質向上と経営成果を同時に実現してみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている

