ISO9001認証範囲の決め方とは?基準・参考例を交えた失敗しない設定ガイド!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 1 日前
- 読了時間: 9分

▼ 目次
1. はじめに
● ISO9001の認証範囲を決める意味:本記事のゴール
ISO9001を導入するとき、**「認証範囲(適用範囲)」**をどう設定するかは非常に重要です。
この範囲を曖昧にすると、外部審査で不適合を指摘されたり、顧客に「本当に品質管理されているの?」と疑われたりする可能性があります。
本記事では、認証範囲を決める基本的な考え方から、実際に運用した企業の事例、設定を失敗しないためのコツまでを広くカバーします。
2. そもそもISO9001認証範囲とは?
● 項番 4.3(適用範囲の決定)をわかりやすく解説
ISO9001 項番 4.3では、組織が「どの製品・サービス、どの拠点・部門を品質マネジメントシステムに含めるか」を明確に示す必要があると規定しています。
例えば、製造部門のみ含めて営業部門は対象外とする企業もあれば、全社で取得する企業もあります。
ここをきちんと定義していないと、外部審査員や顧客から「曖昧で運用が不明確」と見なされるリスクがあります。
● 範囲設定の失敗が引き起こすリスク
範囲を広げすぎる: 文書管理や内部監査の工数が一気に増え、現場が回らなくなる。
範囲を狭めすぎる: 実際には品質に大きな影響を与える部門を除外してしまうと、顧客や取引先から「品質保証していない部門があるのでは」と疑われる。
3. なぜ認証範囲の設定が重要なのか
● 外部審査での評価ポイント
外部審査員は最初に「この組織はどんな業務を認証範囲に入れていますか?」と確認します。
もし主要な製造ラインを外していたり、顧客に影響を与える部署が含まれていない場合、「それは正しい範囲選定といえるのか」と疑問を投げかけられます。
逆に明確かつ合理的な根拠を示せれば、認証範囲の設定に問題はありません。
● 顧客や取引先へのアピール度
範囲が明確だと、**「ここまで品質管理されている」**ことを顧客や取引先に示すことができます。
例えば「製造だけでなく、設計から出荷までフルカバーしています」と言えれば、取引相手にとってはより信頼性が高い企業だと感じてもらえます。
● 社内リソースと運用負荷のバランス
中小企業の場合、限られた人員で運用することが多いため、全社一括で取得しようとすると文書化や監査に大きな負担がかかります。
かといって小さな範囲に限定しすぎると、ISOを取る意味が薄れてしまう。
このバランスをどう取るかが運用の成否を左右します。
4. 認証範囲の基本的な決め方:基準と考え方
組織の業務内容と製品・サービス特性
自社が提供するコアなサービスや製品が何か。それを支える主要工程はどれかを明確化。
例:ソフトウェア開発企業なら、開発プロセスだけ認証範囲に含め、社内ITサポートは範囲外とする。
事業拠点や部門の範囲
例えば本社と工場が別拠点の場合、両方含めるか、工場のみか。営業所はどうするか。
経理や人事など、品質に直接関係が薄い部署は外す企業も多い。
子会社・関連会社の取り扱い
グループ全体でISOを取るか、主要会社だけで取るか。
私の支援先では、「親会社+主要子会社」で認証を取得し、残りの子会社は後から段階的に追加する方針をとった例があります。
除外項目の決め方(項番 8.3 設計開発など)
設計開発工程がない企業は、「当社は設計開発を行っていないため項番 8.3を除外」と記載するケースも。
ただし、本当に何も設計がないのか、現場で微妙に作り替えているのか、よく確認する必要があります。
5. 参考例・具体例:実際の認証範囲設定パターン
● 製造業の例
主要工場のみで認証: 営業部門は対象外にし、製造工程の品質管理をアピール
メリット: 運用負荷が軽減
デメリット: 顧客から見れば「営業対応の品質はどうなの?」という不安が残る
全社一括認証(本社+工場+倉庫)
メリット: クレーム対応や出荷管理も一貫して品質保証できる
デメリット: 内部監査や文書化の手間が増える
● 建設業の例
本社+施工部門のみ: 協力会社や下請は除外
わかりやすいが、実際に施工する協力会社の品質が確保されないデメリット
協力会社も含めたサプライチェーン全体
設計、施工、材料調達すべてを範囲内にし、入札で「当社は全面的にISO9001を適用」とPR
● サービス業の例
コールセンター業務だけ認証: 顧客接点の品質を保証
メリット: クレーム削減や顧客満足度向上を重点にできる
デメリット: バックオフィスの品質は対象外になり、社内全体の統一感が薄れる
6. 項番 4.3(適用範囲の決定)を詳しく見る
● 項番 4.3の要求事項
企業は「組織の状況」や「利害関係者のニーズと期待」、「提供する製品・サービスの特性」などを考慮して適用範囲を決めなければなりません。
さらに、適用範囲を文書化し、外部に示せる状態(例えば品質マニュアルなど)にする必要があります。
● 自社の業務フローとの関連
製造フロー、サービス提供フローを可視化して、どこが品質に大きく影響するかを検討。
例えば物流が外部委託なら、委託先の品質管理まで含めるかどうかを検討する。
● 除外できる部分の条件
企業が本当にその工程を持っていない、あるいは品質に影響がない場合は除外可能。
ただし審査員から「設計は本当に一切やっていないのか?」と突っ込まれ、苦労する企業もあるため事前調査が大切。
7. やり方・手順:失敗しない認証範囲設定のステップ
組織構造の整理と利害関係者の分析
会社全体の部署一覧、社内外の要求をまとめる。顧客から「全部含めてほしい」と要望があるかなど。
主要な製品・サービスとプロセスの洗い出し
開発、製造、販売、アフターサービス、物流などそれぞれの工程をリストアップ。
範囲候補を複数作り比較検討
例:A案は製造部門だけ、B案は製造+営業、C案は全社。優劣を検討し、最適解を探る。
リスクとメリットを評価
コスト増、文書管理の負荷、顧客信用度の向上などをバランスよく考慮。
最終決定と文書化
経営層の承認を得て、品質マニュアルなどに「適用範囲」を明示。社内周知も忘れずに行う。
8. 実務で役立つ基準:どこまでカバーすればいいか
顧客からの要求
BtoBの場合、大手企業が「工場だけでなく、設計や物流も含めてほしい」と条件にすることあり。
取引先との契約をチェックし、どの範囲が期待されているか確認。
重要な工程やリスクが集中している場所
クレームが多い部署や、製品の品質を大きく左右する工程は必ず含めるべき。
逆に、あまり品質に影響しない部署を外すことで負担を減らす手も。
コスト・リソースの許容範囲
小規模企業だと全社導入は負荷が大きい場合もある。段階的に拡大していく方式も検討。
9. 成功事例:認証範囲の設定を上手に行った企業
● 事例A:製造業が一部門から始めて段階的に拡大
背景: 当初リソースが足りず、主要製品ラインのみ認証を取得。
施策: 運用が安定してきたら他部門も加え、最終的に全社認証を達成。
結果: 初期導入費を抑えつつ、社内にISOのノウハウが徐々に蓄積。
● 事例B:建設会社が協力会社も含めた広範囲認証
背景: 大手ゼネコンから「協力会社の品質管理も含めて欲しい」と要望
対応: 協力会社の作業工程までQMSで管理し、定期的に監査。
効果: 入札に有利となり、工事品質も安定してクレームが減少。
● 事例C:サービス業がコア事業だけに限定
背景: 全社をカバーするにはコストが大きすぎる
施策: コールセンターの顧客対応業務だけを認証範囲とし、そこにリソースを集中
成果: クレーム対応品質が向上し、顧客満足度調査で高評価を得るように。
10. デメリットや注意点:認証範囲を広げすぎ・狭めすぎ
広げすぎのデメリット
文書管理や内部監査の範囲が増大し、運用負荷が急上昇。
すべての部署が同じルールを守る必要があり、小さな部署には大きな負担。
狭めすぎのデメリット
「品質に関わる重要な工程が抜け落ちているのでは?」と顧客から疑問視される。
実際には品質に影響がある部署なのに、認証範囲に入っていないため、社内で連携がとりづらい。
11. 専門用語のやさしい解説:初心者向け
項番: ISO9001の章節。認証範囲は項番 4.3で定義
適用範囲(スコープ): どの製品・サービス、拠点、部門をQMSに含めるかを指す
除外(Exclusion): ISO9001の要求事項のうち、自社に関係ないものを適用外とすること。
ステージ1審査・ステージ2審査: 認証審査の2段階。書類審査と現場審査に分かれる
12. 失敗しない設定ガイド:運用の視点から見たポイント
内部監査・マネジメントレビューとの連動
設定範囲が妥当かどうかを定期的に見直す。業務内容が変わった際に更新を忘れない
経営層の意思決定
範囲選定は最終的にトップマネジメントがOKを出す必要がある。コストや負担を鑑みながら計画的に
文書と実運用の整合
範囲を決めたら、品質マニュアルやフロー図に反映し、全社員が周知する。形骸化を防ぐ
13. まとめ:ISO9001認証範囲の決め方とは?基準・参考例を交えた失敗しない設定ガイド
認証範囲を決めるステップ:
組織構造の整理 → 2. 主要製品やプロセス把握 → 3. 複数候補を比較 → 4. リスクとメリットを評価 → 5. 最終決定と文書化
押さえるべきポイント:
広すぎると運用負担が増大、狭すぎると顧客信用が落ちるリスク。
項番 4.3を理解し、正当な理由で除外する部分はしっかり根拠を示す。
成功へのコツ:
経営層のコミットメントを得て、運用コストやリソースを確保
小さな範囲から始めて徐々に拡大する方法も有効
内部監査やマネジメントレビューで定期的に妥当性を検討
これらを踏まえて、自社に最適な範囲設定を行えば、ISO9001の効果(品質向上・顧客満足度アップ)を十分に発揮できます。認証範囲の決め方は導入の成否を左右する重要テーマ。ぜひ本記事を参考にして、失敗しない設定を実現してください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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