ISO9001の日常点検とは?やり方・参考例・具体例でわかる品質向上の秘訣!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 5月29日
- 読了時間: 9分

▼ 目次
1. はじめに
● ISO9001の日常点検って何?この記事のゴール
ISO9001では製品やサービスの品質を安定的に保つことが求められます。そのために、日常的な小さなチェックを積み重ねて問題を早期に発見&予防する日常点検は非常に大切な作業です。
私自身がコンサルタントとして多くの中小企業や製造現場を見てきた経験上、**「日常点検をどこまで習慣化できるか」**で品質レベルが大きく変わってくると感じます。
この記事では、「日常点検」の基本的なやり方・具体例・注意点をわかりやすく解説し、実務で活かすポイントを詳しく紹介します。
2. そもそもISO9001日常点検とは?
● 項番 8(運用)や項番 9.1(監視・測定)との関係
ISO9001 項番 8では、製品やサービスの「運用」をどのように管理するかを示しています。日常点検は、この運用管理の一部として設備や手順が正しく機能しているかをこまめに確認する作業と言えます。
また、項番 9.1「監視・測定」では、品質を計測・分析する仕組みの整備が必要とされています。日常点検で得られる小さなデータや異常の兆候も、監視の一環として集約すれば、より早く問題を把握しやすくなります。
● 日常点検と内部監査との違い
日常点検: 現場レベルで毎日or週ごとに行う点検。対象は主に「製造設備・作業環境・標準手順の守られ方」など。
内部監査: 項番 9.2が求める、年1回以上の体系的な審査。ISO全項目を俯瞰して不適合を洗い出す。
日常点検は小さい範囲を短いスパンで確認し、内部監査は広い範囲を定期的にチェックする、とイメージすると分かりやすいでしょう。
3. なぜ日常点検が重要なのか?
● 不具合・クレームの早期発見と予防
大きなトラブルは、最初は小さな異常の見落としから始まることがほとんどです。日常点検をこまめに行えば、
設備の異音や温度上昇
作業手順の変更
在庫・部品の状態などを素早く察知し、重大な不良やクレームが起きる前に対処が可能となります。
● 担当者の品質意識向上
日常点検は「現場が品質を守る主役」になる場とも言えます。毎日の点検を習慣化すると、作業者の中で「ちょっとした違和感を見逃さない」意識が高まりやすいです。
私が支援した電子部品メーカーでは、作業者が「この装置、少し振動が大きくなっていませんか?」と日常点検レポートに書いていたのをきっかけに、重大故障を防げた例があります。
● 外部審査・顧客監査での評価ポイント
ISO9001の外部審査員や取引先の顧客監査でも、「どんな頻度で何を点検しているか」がよく確認されます。
日常点検のチェックシートや報告書が整備されていれば、**「この会社は現場レベルで品質をしっかり管理している」**という好印象を与えます。
4. 日常点検の基本ステップ:やり方と流れ
点検項目の設定
「設備」「作業手順」「安全・環境」「文書・記録」など、大カテゴリを決めて具体項目を細分化。
例:設備点検では「動作音・温度・汚れ・潤滑油漏れ」などをリスト化する。
チェック頻度の決定
毎日行う項目(安全設備、稼働状況)と、週や月ごとでいい項目(備品在庫、排気フィルターなど)を分ける。
作業者の負担にならない範囲で効率よく設定する。
担当者の割り振りと教育
チームリーダーがメイン担当、他メンバーも交替で点検して知識を共有する方式も多い。
点検手順書やマニュアルを用意し、写真入りでわかりやすくすると現場が混乱しにくい。
点検結果の記録と報告
チェックシートやアプリで「OK/NG」「異常発見箇所」を簡単に書き込めるようにする。
大きな問題や疑問はリーダーに報告し、必要なら即改善を検討。
問題が見つかったら是正処置
誤魔化さず「異常あり」を申告し、原因を調査する。中規模以上の不具合なら項番 10.2(不適合と是正処置)のプロセスを正式に活用する。
5. 具体的なツール・テンプレート:チェックリストの作り方
設備点検リスト
項目例:外観・稼働音・温度計測・油漏れ・警報ランプ動作など
それぞれ「OK/NG」「不具合の程度」「対処内容」を記録できるフォーマットに。
作業現場チェックシート
整理整頓(5S)、保管ルール、作業服の着用状況、作業手順の遵守状況など
例:建設現場なら「足場状態」「安全帯の使用」「資材の乱れ」などを確認。
文書・記録点検
最新版かどうか、署名・承認印があるか、改訂履歴が正しく管理されているか
システム運用企業はクラウド上でバージョン管理しているかなどを確認。
アプリやデジタルツール
タブレットで写真を貼り付けながらレポート→クラウドで一括管理し、すぐに共有
私が支援した食品工場では、スマホアプリから温度写真とコメントを記録して日々の衛生管理を効率化していました。
6. 日常点検の参考例・具体例【業種別】
● 製造業の例
生産ラインの始業点検
通電確認、計測器のリセット、材料在庫確認など
終業点検
清掃、未使用材料の保管、次日用の準備
週次点検
設備の油量確認、冷却装置フィルタ掃除、センサー動作テスト
● 建設業の例
朝礼点検
人員確認、安全装備(ヘルメット・安全帯)の装着、天気・気温チェック
作業中点検
重機や工具の異音や振動、足場の安定性、配筋のズレなど
完了後の点検
ゴミ処理、部材の次日準備、図面変更の反映
● サービス業の例
店舗での開店前チェック
レジ残高・備品残量、ホールの清掃、空調・照明動作
営業時間中の巡回点検
接客品質のばらつきや、緊急連絡体制の確認
閉店後チェック
金銭管理の最終確認、防犯装置、POP表示の更新
7. 成功事例:日常点検で品質が大きく向上した企業
● 事例A:部品メーカーが不良率3%→1%に削減
背景: 同じ原因不明の不良が度々発生し、クレーム増
施策: 毎朝、工作機械のスイッチオン時に“標準試作品”を切削し計測→わずかな誤差でも検出し、すぐ調整
結果: 不良率を2%分削減し、年間数百万のコスト減。顧客満足度も向上
● 事例B:建設会社が施工ミスを半減
問題: 資材や配置の確認ミスで再施工が増え、工期遅れも発生
対策: 毎日の朝礼・昼休み・終業時に「現場日常点検チェックリスト」を導入
効果: 施工ミス半減・工期遵守率が上昇し、評判が上がる
● 事例C:店舗サービスでクレーム大幅減
課題: 顧客対応品質がスタッフによって差があり、クレームが増加
対応: 接客マニュアルを簡易チェックリスト化し、1日1回リーダーが巡回点検+フィードバック
成果: クレーム件数が前月比30%ダウン。スタッフの意識も揃って一体感が生まれた
8. よくある失敗事例と対策
形だけの点検チェック
本当はチェックしていないのに、シートだけ「全てOK」と記入→いざ問題が起きると対応できず
対策: 現場リーダーや内部監査が実際に現場を確認し、記録と実態が合っているかを定期的にチェック
点検項目が多すぎて現場が追いつかない
一度に何十項目も見ろと言われ、結果形骸化
対策: 項目を“毎日”“週1”“月1”等に分けて負担を分散
担当者が曖昧で誰も責任を持たない
みんなで共有しているつもりが、実は誰も実践していないケース
対策: 担当者やチームを明確化し、交代制にして誰がやるかがはっきり分かるように
9. 専門用語のやさしい解説:初心者向け
項番 8(運用): ISO9001の章で、製品やサービスを実際に作ったり提供したりする時の管理方法について書かれている
不適合: 規格や自社ルールに反する状態(不良品、ミスなど)
是正処置: 見つかった問題の根本原因を取り除く活動(再発防止)
PDCAサイクル: Plan(計画)→Do(実行)→Check(確認)→Act(改善)を繰り返す品質管理の基本概念
10. 項番 8との関連:日常点検で押さえるべきポイント
項番 8.1(運用の計画及び管理): 日常点検を運用計画に組み込み、いつ誰が何を点検するか明確化
項番 8.5(製造や作業実施): 実際の工程で点検をどう位置付け、チェックシートなどを活用するか
項番 8.6(製品リリース): 出荷前やサービス提供前の最終点検で合否を判断
11. 日常点検を定着させる運用のコツ
上長やリーダーのフォロー
点検結果をミーティングで共有し、問題点を速やかに是正処置につなげる
簡易ツール・デジタル化の活用
スマホ・タブレットを使ったチェックリストで写真添付→現場負担減&情報共有が早い
内部監査との連動
項番 9.2の内部監査で「日常点検シートは本当に使われているか?」を確認し、改善に反映
12. 失敗を防ぐ実践ガイド:内部監査・マネジメントレビューとの連携
内部監査で日常点検の実施状況をサンプル確認
現場に現物を見に行き、チェックシートや記録が実態と合致しているかを検証
マネジメントレビューで課題を上層部が認識
経営層が日常点検の報告を受け、改善提案に予算やリソースを割く
項番 10(改善)までつなげる
日常点検で出た小さな異常をほったらかしにせず、是正処置を行い、再発防止策を全社に展開
13. まとめ:ISO9001の日常点検とは?やり方・参考例・具体例でわかる品質向上の秘訣
日常点検は、現場レベルのこまめなチェックを通じて問題を未然に防ぎ、クレームや不良率を大幅に低減する仕組みです。
基本ステップ: 点検項目設定→チェック頻度→担当者割り当て→結果記録→是正処置
具体的ツール・テンプレート: 設備点検リスト、作業現場チェックシート、デジタルアプリなど
成功のコツ: 形骸化を防ぐ工夫(担当者明確化、簡易ツール導入)、経営層のサポート、内部監査やマネジメントレビューとの連携
小さな日常点検の積み重ねが、最終的に大きな品質向上と顧客満足度アップにつながります。ISO9001の項番 8(運用)や項番 9.1(監視・測定)を踏まえ、自社でもすぐ実践できる形を目指してみてください。結果として、日常点検こそが「強い品質管理体制」を支える土台になるはずです。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
Comments