ISO9001で求められる“力量”とは?具体的な管理方法と社員教育の進め方を解説
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月16日
- 読了時間: 12分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
本記事では、ISO9001における「力量(コンピテンシー)」について、企業がどのように管理し、どんな手順で社員を教育すればよいかを解説します。
想定読者
これからISO9001を導入し、品質マネジメントシステムを整えたい企業の担当者
すでにISO9001を取得しているが、「人材のスキル管理が曖昧かも…」と悩んでいる管理職・スタッフ
教育や評価の仕組みを構築し、組織全体の品質向上を目指したい方
1.2. なぜISO9001で「力量」が求められるのか?
ISO9001は、企業の品質保証体制を継続的に改善するための仕組みです。この仕組みを回す中心は“人”であるため、職務をしっかりこなす「力量」を備えた社員が必要とされています。
キーワード: 「必要な業務スキル」+「適切な教育」+「定期的な評価」が、顧客満足や不良削減などの成果に直結。
1.3. 本記事で得られるメリット(力量管理方法・社員教育・実例など)
ISO9001が要求する“力量”の定義を理解できる
具体的な評価・管理方法(スキルマトリックス・ギャップ分析)を知る
社員教育の進め方(研修・OJT・資格取得支援)と運用のコツがわかる
他社成功事例や実践ポイントで、導入ハードルを下げられる
2. ISO9001の力量とは?基本概要
2.1. 規格で定義される「力量」:どんな要素が含まれる?
ISO9001では、必要な能力を「力量」と呼び、社員が業務を正確に行うための知識・技能・経験を含めた総合的なスキルを指すと考えられています。
例: 製造部門であれば「作業手順の理解」「機械操作スキル」、営業部門であれば「商品知識」「コミュニケーション能力」など多岐にわたります。
2.2. 品質マネジメントシステム(QMS)における人材の重要性
QMSは、製品・サービス品質を守るための仕組みですが、実際に動かすのは社員一人ひとりの作業や判断です。
コンサル経験: いくらマニュアルを整備しても、人材のスキルが不足していたり理解不足だと品質目標が達成できないケースが多い。
2.3. “力量”と“資質・能力”の違い、関連条文の解説
資質は個々人が生まれ持った特性や性格面を指すことが多い。一方、力量は後天的に教育・訓練で伸ばせる要素を含む。
ISO9001:2015では、7.2 力量の項目で「組織は必要な力量を特定し、教育や研修でそれを保証すること」を要求。
3. 力量管理を行う狙いとメリット
3.1. 仕事の品質向上と顧客満足度アップ
直接効果: スキル不足によるミスや不良が減り、顧客が満足する製品・サービスを安定供給
結果: 顧客満足度の上昇→ リピート率や口コミ評価の向上につながる
3.2. トラブル・ミスの予防、再発防止効果
具体例: 製造ラインで作業標準を守れるよう全社員が必要スキルを持つ→ 品質トラブル減少
コンサル視点: 人的ミスが原因の不良率が大きく減り、コスト削減につながった企業が多数
3.3. 社員モチベーション向上や組織活性化への波及
効果: 能力を正当に評価され、研修や資格取得支援を受けられる→ 社員が成長を実感、やる気がアップ
他社事例: “スキルが認められる会社”として採用ブランドが上がったケース
4. 力量の設定方法:必要なスキルや知識を整理しよう
4.1. 仕事分析:各職務・業務の必要スキルを明確化
方法: 部署ごとに「業務一覧」を作り、それを実行するために必要なスキルを書き出す
例: 製造ライン担当→ 機器操作、図面解読、品質チェック項目の理解など
コンサルアドバイス: 現場リーダーや担当者本人とヒアリングし、実際の業務内容とマニュアルの乖離がないか確認
4.2. スキル表を作成する手順
行に業務・職務内容を列挙
列に社員名 or 役職を入れ、レベルを点数(1~5など)で評価
ギャップが大きい部分が教育・研修対象
4.3. コンサル視点:業種別のスキル例(製造・サービス・ITなど)
製造業: 作業手順把握、機械操作スキル、安全衛生知識
サービス業: 接客スキル、クレーム対応能力、商品知識
IT業界: プログラミング言語、セキュリティ知識、プロジェクト管理能力
メリット: このように業種ごとに必要スキルを切り分け、評価しやすくする
5. 力量評価とギャップ分析の実践
5.1. 評価基準の決定:定量・定性の両面から
定量評価: 資格保有・試験結果・業務実績の数値
定性評価: 面談や上司の観察などでコミュニケーションスキル・リーダーシップを判断
ポイント: 数字だけでは測れない部分もあるので、両面のバランスが重要
5.2. 評価手段(試験・面談・実務実績など)の選択と導入
試験: 筆記テストや実技試験→ 客観的にスキルレベルを測定
面談: 社員の考え方や態度、潜在能力を把握
実務実績: 不良率、クレーム処理成功率などを業績評価に反映
5.3. ギャップ分析:現状と必要レベルの差を把握→ 改善計画立案
例: 営業担当が売上目標を達成できない理由が商材知識不足→ 専門研修や先輩同行を計画
コンサル体験: ギャップ分析で、どこに時間や費用を投資すれば最大効果が出るかが明確になる
5.4. 他社事例:定期的なスキルチェックで人材配置を最適化
製造業A社: 半年ごとに全社員のスキル評価を行い、ライン編成やリーダー選任を柔軟に変更→ 不良率激減
6. 社員教育の進め方:効果的な研修・OJT・資格取得サポート
6.1. 教育計画の立案:年間スケジュールと個人別プラン
方法: 年度ごとに必要な教育内容を洗い出し、部署ごと・個人ごとにスケジュール化
コンサル視点: 無計画だと研修時期が集中し業務が圧迫される→ 余裕を持った計画が大事
6.2. OJT(On the Job Training)の活用ポイント:実務と結びつける
OJT: 現場で先輩と後輩がペアになり、業務しながら教える形式
メリット: 実務経験を積みながらスキル習得→ 定着率が高い
注意: 教える側のスキルも大事。OJT指導者への研修が有効
6.3. 研修やeラーニング、資格取得支援の導入事例
研修: 外部講師を呼んで1日集中で行う、動画研修を使うなど
eラーニング: 空き時間に学習可能、受講履歴が残り管理しやすい
資格取得支援: 検定費用を会社が補助→ 社員のモチベ向上+スキル向上
6.4. コンサル体験談:少人数企業でも無理なく進める教育手法
ケース: パート・アルバイトが多い企業→ 毎週の短いミーティングで1テーマずつ学ぶ方式
効果: 小さな時間でスキルアップでき、負担が少ない
7. 力量管理システムの運用:定期的なモニタリングと更新
7.1. PDCAサイクルで力量を維持・向上させる
Plan: 必要スキルと教育計画を立案
Do: 教育実施、OJTなど
Check: 評価・監査でスキル達成度を確認
Act: ギャップがあれば研修追加や配置転換
7.2. 文書化と記録:審査時の証拠として必要
ISO9001では、力量管理の結果を記録に残すことが要求される
例: スキルマトリックス、研修受講名簿、資格取得証明書などを保管
7.3. 課題管理表・人材育成計画表の運用事例
用途: 「Aさんは5月までに資格取得」「Bさんはリーダー研修に参加」など具体的に落とし込む
コンサル視点: 調整会議や人事考課にも連動し、PDCAが回りやすい仕組みを作ると効果大
8. よくある失敗例・課題と対策
8.1. 「現場任せ」で文書化されておらず、外部審査で不適合指摘
原因: 教育はしてるが公式な記録や計画書がない→ 曖昧な口頭指示のみ
解決策: 研修計画・スキルマトリックス・評価記録を整備し、ルール化
8.2. 教育だけで終わり、評価やフォローアップがされない
状況: 研修受講したが、その後試験や実地評価がなく、スキル定着が不明
対策: 研修後にテストや面談を実施、一定期間後に再評価→ 具体的改善策を検討
8.3. 形式的な研修で社員が実践に活かせない
例: 座学講義のみで現場の実務に結びつかない→ モチベ低下
コンサルアドバイス: OJTやグループワーク、ロールプレイなど実践型手法を併用
8.4. コンサル視点:費用対効果を高めるための改善策
成功例: 研修テーマを的確に絞る、オンライン教材活用、必要な資格だけ支援→ 効果を数値化して経営層に報告
9. 力量管理がもたらす効果:成功事例紹介
9.1. 製造業A社:スキルマップ導入→ 不良率・ミス激減
導入経緯: 不良率が高く、顧客クレームが増加→ スキルマトリックスで欠けた能力を特定
対策: 研修とOJTを組み合わせ、定期的に面談
結果: 半年で不良率が5%→2%以下に改善
9.2. サービス業B社:研修と定期面談を徹底→ 顧客満足度向上
例: 接客の基本マニュアル+研修を全スタッフ必須→ 月1回面談で問題解決
成果: クレームが前年比30%減少、アンケート満足度が★3→★4にアップ
9.3. IT企業C社:資格取得支援制度→ 社員成長と新技術開発に成功
方法: 社員がプログラミング資格やプロジェクト管理資格を取る際、受験料全額補助
効果: 社員が積極的にスキルアップし、新技術開発プロジェクトで業績拡大
10. 社員モチベーション・定着率を高める工夫
10.1. 力量評価を人事評価と連動させるメリット・注意点
連動メリット: スキルを伸ばすほど給与やキャリアに反映→ モチベUP
注意: 資格取得や研修受講のみが評価対象ではなく、実務成果も見るバランスが必要
10.2. キャリアパス提示で社員が成長を実感できる仕組み
方法: 「初級→中級→上級」と段階を用意し、どの段階で何を達成すればステップアップかを明確化
事例: 自己申告制度と組み合わせ、社員が自分のキャリア目標を描きやすくする
10.3. 他社でのインセンティブ設計や成果を共有する文化づくり
例: 特定スキルを習得した社員に報奨金、社内報で成果発表など
コンサル視点: チーム全体の士気を高め、離職率減少に効果的
11. 社内周知・巻き込みのポイント
11.1. 経営層や管理職のコミットメントを高める方法
背景: 経営層が「スキル教育は現場任せ」と思うと進まない
対策: 力量不足による損失を数値化→ 経営リスクとして認識してもらう→ トップの支持を得る
11.2. 現場への説明会やフィードバック制度の整備
方法: スキル評価の基準や目的を社員全員に共有し、不安を取り除く
フィードバック: 定期的に評価結果を本人に伝え、改善策を一緒に考える
11.3. 力量不足者へのフォロー・再教育プロセスの設計
例: 一定の期間で能力が伸びない場合は個別プログラムを作成→ マンツーマン指導
メリット: 見捨てられることなくサポートがある→ 社員の安心感が高まり、退職率低下
12. ISO9001審査対応:力量部分での外部審査のチェック項目
12.1. 審査員が見る書類例(スキル表、研修計画、評価記録など)
必須書類: “誰が何の業務を担当し、その業務に必要なスキルがどう管理されているか”の記録
コンサル視点: 勤務履歴、資格証明、研修参加記録などが整理されていれば問題なし
12.2. 「この手順なら問題なし!」という審査通過事例
事例: ある製造業でスキル表をExcelで管理し、資格更新時期や研修実績を自動リマインド→ 外部審査で好評価
理由: 確実に管理している証拠をスムーズに提示できる
12.3. 不適合指摘を受けやすいケースと是正事例
例: 「教育はした」と言うが記録がない→ 是正:研修参加リストを作成し、簡単なテストやアンケートを実施
効果: 教育が本当に実施された証拠を明確に示せる
13. Q&A:ISO9001の力量に関する疑問
13.1. 「小規模企業でも大掛かりな研修は必要?」
回答: 無理に大規模研修する必要なし。重点スキルを定め、OJTや小集団教育で十分可能
具体策: 部門ミーティングで週1回15分勉強、資格取得補助などで段階的にレベルアップ
13.2. 「資格や学歴だけで力量を評価してもいい?」
回答: 資格や学歴はあくまで一面。現場経験や実務の成果・上司の評価なども併せて見るべき
理由: 資格保有者でも実務パフォーマンスに差があるので、バランス評価が必要
13.3. 「外部委託先・派遣社員にも力量管理が必要?」
回答: ISO9001上、外部委託先も品質に影響する業務なら必要レベルが明確化されているか確認すべき
実例: 派遣社員向けに簡易研修を用意する企業も。契約時にスキル要件を明記している例も多い
13.4. 「人材流出が多い場合、どこに重点を置くと効果的?」
回答: スキルアップ支援やキャリアパス提示が有効。教育により個人の成長を実感できる→ 離職防止
コンサル視点: 賃金面に加えて、学習環境を整えたり資格手当を設ける企業が増加中
14. まとめ:ISO9001で求められる“力量”とは?具体的な管理方法と社員教育の進め方を解説
14.1. 記事の総括:スキルの定義・ギャップ分析・教育・評価のサイクルが大切
一連の流れ: 必要スキルを定義→ 社員の現状評価→ ギャップを埋める教育→ 評価とフォローアップ
ISO9001の審査でも、明確な記録と改善の仕組みがあると安心
14.2. 「少しずつでもいいので、まずはスキル表から始めよう」
アドバイス: 全社的に一気にやると混乱→ 重要部署や頻発トラブル領域からスキル洗い出しするだけでも効果あり
成果: どこに研修や投資をすれば改善効果が高いかが見える
14.3. 最後のメッセージ:力量管理が会社全体の品質と競争力を高める
結論: 良いシステムを導入しても動かすのは“人”。人材が高いスキルを持つことで顧客満足や企業の信頼度が上がる
行動: 人材スキルを定義し、教育と評価をセットで継続すれば、ISO9001が生きた仕組みになる
おわりに
ISO9001における“力量”は、組織が高品質な製品・サービスを安定して提供するための重要要素です。
結局は“人”が品質を創る→ 必要スキルを定義し、評価し、教育するサイクルが欠かせません。
コツ: まずはスキルをリスト化・マトリックス化→ ギャップを見える化→ 現場に合った研修で強化→ 定期的なチェックとアップデート。
そうすることで、顧客満足度の向上や社員のモチベーションアップ、経営の安定につながります。ぜひ本記事の手順や事例を参考に、自社の力量管理を充実させてみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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